甘い顔した君にはもう
目を逸らさないまま早美くんはニッコリと私に微笑む。
「えっ・・・・」
こういう反応の返し方はどうも苦手だし、でもこれを無視するのもなんだか虫唾が走る。
困った私は、笑顔で返した。
つもりなのに「ふっ」と静かに鼻で笑う早美くんの、バカにしたような顔を私は見逃さなかった。
「なに変な顔してんの」
恵奈が私を見上げながら言う。
「え?私変な顔してた?」
「うぁん」
「なにその曖昧な返事・・・もう行くよ!」
私はなかなか椅子から立ち上がらない恵奈の手首をとり、強引に立ち上がらせる。
「ちょっと待って!」
びっくりした。
早美くんの声に私たちは思わず立ち止まる。
「場所分からない、案内してよっ」
「い・・・いや」
本当に顔に似合って甘え上手と言うか、あざといというか・・・圧倒されてしまう。
「だめ?」
「だめ?」というたった一言でこの破壊力だ。
先ほど早美くんのオタクをしていた女の子たちがキャッキャし始める。
ああ、なんだ。早美くんはきっと私たちに案内を頼んでいたわけじゃない。
みんなに聞いていたんだ。
恥ずかしいな、反応しちゃったじゃない。
「早美くん、私たちが案内するから着いてきて!!」
「おいで!!」
「おいでって、弥生ちゃんは犬じゃないんだから!!」
すぐに反応しない早美くんが、私は少し気がかりだ。
だけど、こういうのは知らないふり知らないふり。
それが平和。
「じゃあ、任せました・・・」
そう言い、私は静かに退散する。