【マンガシナリオ】コンプレックス同盟
第2話 嘘みたいな本当の話
◯駅前にあるカフェ(放課後)
放課後になり、月詠は彩美と駅前のカフェで今日の昼休みの出来事を話していた。
彩美「え〜…冨永、マジかぁ。本当に自分で声かけろって感じだよ。でもでも!谷先輩、超かっこいいじゃん!イケメンは中身もイケメンなんだね〜」
アイスカフェオレを口に含み、興奮気味に話す彩美。
月詠「うん…。ちょっといいなぁって思っちゃった」
若干頬を赤らめつつ、コップのストローをくるくる回す月詠。カラカラと中に入った氷が音をたてる。
彩美「ははーん…。恋の予感って感じ??」
ニヤニヤと楽しげな笑みを浮かべる彩美に、さらに月詠は頬を赤く染めた。
月詠「でもさ、先輩みたいな人気者には私みたいな平凡女子高生不釣り合いっていうか…」
もともと姉の件で自己肯定感の低い月詠は肩を落として言葉を紡ぐ。
彩美「何言ってんの!名前認知されてたんでしょ〜」
月詠「そうだけど…。たまたま名前が珍しかったから目についただけだろうし」
彩美「もうっ。月詠は普通に可愛いんだからさ、もっと自信もちなよ」
陽鞠と比較されすぎてきた月詠にとってはかなりそれが難しい。「自信」という言葉が自分にはいちばん不釣り合いな言葉だとも感じていた。
月詠「ありがとう…。彩美だけでもそう言ってくれて嬉しい」
彩美「月詠は、またそういうこと言って…。確かに、今日の冨永みたいに陽鞠さん目当てで近づいてくるヤツもいたけどさ。中学時代にいたじゃん!ほら、私たちが1年生の時!同じクラスだった…えーっと〜」
月詠「あぁ…。吉田くんのこと?」
彩美「そそ。吉田!吉田晴稀(はるき)!あの子、月詠のことかなり好きっぽかったし。仲良かったじゃん?」
月詠「でも、別に告白されたわけじゃないよ…」
興奮気味に話す彩美に、苦笑いを浮かべた月詠。
その瞬間、中学時代の出来事が思い出される。
◯(回想)月詠・彩美中学1年生時代
放課後、日直の仕事で教室に一人残り、日誌を書いている月詠。
(この当時も3年生に姉、陽鞠が在籍しておりよく男子生徒から姉を紹介してほしいと頼まれていた)
そこに近づいてきたのは、同じクラスの吉田晴稀だった。
晴稀「山城、あのさ…ちょっと話したいことがあって」
頬を染め、少し言いづらそうに口ごもる晴稀の様子に、月詠は内心「またか…」と肩を落とす。
吉田晴稀は、同じクラスでも目立つグループに所属しており、爽やかな見た目と、スポーツも得意でカッコいいと一部の女子生徒から人気があった。
その割に気さくな性格で、同じクラスの月詠ともよく話をするし、月詠自身も晴稀のことを良い人だなと感じていた。
この頃、月詠に話しかける男子生徒で、言いにくそうにしている人のほぼ99%は姉の陽鞠に関することだと、経験上から察していた月詠は先手を打つことに。
月詠(吉田くんみたいなタイプ、清楚系のお姉ちゃんのこと好きそうだもんなぁ)
そんなことを考えながら月詠は日誌をパタンと閉じ、晴稀に視線を合わせる。
月詠「吉田くん、ゴメンね。お姉ちゃんの連絡先なら教えられなくて…」
もう一度「ゴメンね」と言って書き終わった日誌を提出するため立ち上がる月詠。
しかし。
晴稀「…は?別に山城の姉ちゃんの連絡先には興味ないけど…」
月詠「え…?じゃあ、私になんの用事…??」
驚いたように目を見開く晴稀に、否定された月詠の方がキョトンとした表情を浮かべる始末。
晴稀「……」
月詠「……」
しばらくお互いに気まずい沈黙が流れたあと。
晴稀「…ッ。いや、ごめん…。なんでもない」
その空気にたえられず、視線をそらした晴稀は、くるりと踵を返しその場を立ち去っていく。
あとに残された月詠はただただ、戸惑いを隠せずに晴稀の背中を見送ることしかできなかった。
(回想終了)
**
吉田晴稀とはその後、なぜかお互いギクシャクしてしまい以前のように仲良く話すことが少なくなり…。
中学1年生の夏休み明けに、急遽親の仕事の都合で転校してしまってからは今現在何をしているのかさえわからない状態だった。
月詠(たしかに彩美の言う通り、もしかしたらあの日の放課後、何か吉田くんなりに言おうとしてくれてのかもしれない…)
勝手に姉のことだと、勘違いをして晴稀に対して、申し訳ないことをしたなと月詠は反省する。
彩美「ね!だから、月詠のことをいいなって思ってくれる人もいるんだよ。もしかしたら、谷先輩かそれに当てはまってるかもじゃん」
彩美のひと言にドキドキと胸が高鳴る月詠。
月詠(本当にそうだろうか。彩美の言う通り、少しは期待してもいいのかな…?)
輝都に「綺麗な名前じゃん」と笑顔で言われたことを思い出し、月詠は顔が熱くるのを感じていた。
◯自宅の月詠の部屋(夜)
その夜自分の部屋のベッドで、月詠はゴロゴロとくつろいでいた。
月詠(やっぱり勘違いはよくないよね。輝都先輩が、名前知ってたのだって本当にたまたまだろうし…!でも…。彩美の言う通りだったら…1%くらいは私にも可能性あるのかな…?)
放課後、彩美に言われたことを思い出し、月詠は一喜一憂する。
その時、コンコンと部屋をノックする音が聞こえる。
陽鞠「月詠〜。ちょっと話いい??」
月詠「お、お姉ちゃん?うん、どうぞ〜」
陽鞠に声をかけられ、慌ててベッドに腰掛ける月詠。
それと同時に部屋に入ってきた陽鞠はなぜかニマニマした表情。
月詠「お姉ちゃんどうかしたの?」
そんな陽鞠を不思議そうに見つめる月詠は、未だにニマニマとにやけ顔の陽鞠に問いかけた。
陽鞠「ふふ。ねぇねぇ、月詠さ〜いつの間に、谷くんと仲良くなったの?」
月詠「へ!?な、なんで?」
陽鞠「やっぱりなんかあったんだ〜。珍しいんだよー。谷くんが女の子の連絡先聞いてくるのなんて」
月詠が座る隣にドサッと腰を掛けた陽鞠が、続けざまに。
陽鞠「谷くんが、月詠の連絡先知りたいんだって。教えてもいい?」
と笑顔で尋ねてきたのだ。
月詠「…え?輝都先輩が、私の…!?というか、お姉ちゃん先輩の連絡先知ってたの?」
陽鞠「ま、まぁ。ほら、谷くんって次の生徒会長候補だしそういうわけで、前から連絡先知ってたのよ。そんなことより…!月詠の連絡先は彼に教えちゃってもいいの?」
クスッと微笑む陽鞠は一瞬、動揺したように言葉を漏らしたがすぐにいつもの余裕な微笑みを浮かべ、月詠に問いかけてくる。
月詠(先輩が、私の連絡先をお姉ちゃんに聞くなんて…)
いつもとは真逆の状況に、正直頭が追いついていかない月詠。
(月詠が男子生徒から陽鞠の連絡先を聞かれることはあれど、陽鞠が月詠の連絡先を聞かれるパターンは初めてだった)
陽鞠「ま、月詠がイヤならキッパリと断るけど〜」
月詠「い、いやじゃないよ!ただちょっとびっくりしたっていうか…。先輩とはこの前、ちょっと話ししただけだし…」
俯く月詠に対し、陽鞠は「へぇ〜?そうだったんだぁ。じゃあ、谷くんに教えても大丈夫ね?」といかにも楽しげに声をもらす。
コクリと月詠が頷いたのを確認し。
陽鞠「おっけ。じゃあ、谷くんに送っとく〜!それにしても、月詠を見定めるなんて彼、なかなかお目が高いわね。ふふ」
月詠「お姉ちゃんっ!違うってば、そういうのじゃ…」
陽鞠「はいは〜い。わかってるって。そんなに睨んでも怖くないもん。月詠はワンちゃんみたいで可愛いんだから」
からかうようにひらっと手をふって、部屋を出ていく姉を月詠は顔を真っ赤にしながら自分なりにキッと睨みつけた。