【マンガシナリオ】コンプレックス同盟
第3話 トキメキスイッチ

◯学校の中庭のベンチ(昼休み)

月詠(…彩美、大丈夫かな?)

よく晴れた雲ひとつない青空を見つめ、月詠は1人心配そうな様子。膝に広げたお弁当を食べつつ、小さくため息をこぼした。

昨日の夜、晴稀から姉経由で連絡先を聞かれたことを親友の彩美に直接報告したくてウズウズしていた月詠。

しかし早朝、学校へと向かっている月詠のスマホに彩美からのメッセージが届く。

彩美【月詠おはよう〜。実は、ちょっと風邪引いたみたいでさ、お母さんが1日休みなさいって。今日の課題とかあったらあとで教えて】

最後に泣顔のスタンプも送られてきた。

月詠【彩美大丈夫!?今日の授業のノートちゃんととっとくし、心配しないでゆっくりしてね!】

慌ててそう返信した月詠。
彩美に晴稀とのことを報告するのは後日になりそうだと感じていた。

月詠(彩美、少しは良くなったかな?体調どう?ってメッセージ送ってみようかな…)

お弁当の卵焼きを食べながらスマホをさわっていると。

〜♪

チャットにメッセージが届く。

しかもそのメッセージの送り主は…。

月詠(て、輝都先輩からだ…)

初メッセージに思わずドキンと胸が高鳴る。

緊張しつつ月詠がおそるおそるメッセージを開いてみると。

輝都【月詠、今日は1人で弁当?】

というもの。

月詠(え?なんで先輩が知って…!?)

その時、混乱する月詠の背後から「よっ!」と聞き覚えのある声が聞こえて、ピクッと肩をゆらした。

月詠「て、輝都先輩…!どうしてここに?」

輝都「ハハッ。ビックリしたか?たまたま通りかかった時に月詠がいたからせっかくだしメッセージ送ってみた」

振り向いた先にいたのは、優しく微笑む輝都だった。
驚く月詠をよそに輝都は彼女が座るベンチの隣に座ってくる。

思った以上に近い距離感にドキドキが抑えられない月詠。

月詠「そういえば、先輩お昼は?」

輝都「ん?さっき学食で食ってきた。で、教室に帰ろうと渡り廊下歩いてた時に、月詠を見かけたんだよね」

月詠「そうだったんですね!えっと、学食は何食べたんですか?」

輝都「今日は、牛丼」

そんな他愛もない会話でさえ、月詠にとっては楽しくて。
つい、この時間がずっと続けばいいのにと心の中で考えてしまう。

しかし、時間は残酷だ。

輝都「っと、そろそろ戻らないと昼休み終わっちゃうな」

そんな輝都の言葉で現実に引き戻される月詠。
楽しい時間はあっという間。
月詠も「そうですね」と同意して弁当を片付け始めた、その時。

2年女子A「あれ〜?輝都じゃん!早くしないと予鈴なるぞー」

2年女子B「ほんとほんと!はやくもどんなよ〜」

輝都に声をかけてきたのは、おそらく2年生と思われる女子生徒2名。輝都と同じクラスなのだろうか。
2人とも今時の女の子って感じでメイクもバッチリだし、制服の着こなし方もオシャレで可愛い。

輝都「あぁ、わかってるよ」

ヒラヒラと手を振る女子生徒に、輝都も気さくに声をかけている。
その様子を見た月詠はついモヤッとしてしまう。

月詠「……」

月詠(やっぱり、輝都先輩の周りは可愛い子ばっかりだな…。私みたいな地味女じゃ、不釣り合いだよね)

なんだか急に輝都と一緒にいる野暮ったい自分が恥ずかしくなった月詠は勢いよくバッと座っていたベンチから立ち上がり。

月詠「あ、あの先輩!私もそろそろ教室戻りますっ」

輝都「ちょっ…月詠!?」

驚く輝都を置いて、足早にその場を去ってしまったのだった。


◯学校の下駄箱(放課後)

下駄箱でスリッパからローファーへと履き替えながら月詠は、大きなため息をこぼす。

月詠(ハァ…。絶対、輝都先輩も変に思ったよね)

昼休みの中庭での出来事を思い出し、月詠は1人で憂鬱な気分になっていた。

今日は彩美が休みのため1人で放課後自宅に帰る月詠。
ちなみに今から彩美の家に今日の課題のプリントを届けに行く予定だ。

輝都に変な態度をとってしまた。
月詠はせっかく声をかけてくれた彼に申し訳ない気持ちと自己嫌悪に陥る。昔からそう、お姉ちゃんと比べられすぎてどうにも自信がもてない。

でも、最近は月詠も気づき始めていた。

月詠(でも、本当にダメなのは何でもお姉ちゃんのせいにして、変わろうとしない自分だよ。何をしたって比べられるなら、頑張ったって意味がないし、それでできなかったらもっと苦しいからって、言い訳ばっかりで楽な方に逃げてきたんだもん)

そんなことを考えながら、トボトボと1人正門へ向かおうとしたその時。

輝都「…っいた!月詠!」

月詠「え、輝都先輩…」

背後から声をかけてきたのは、焦った様子の輝都だった。
急いで来たのか、若干肩で息をしている輝都に目を見張る月詠。

輝都「お前、帰るのはやすぎ。月詠のクラス行ったらもういないから焦ったよ」

輝都は、ホッとした表情で月詠に歩み寄ってくる。

月詠「先輩?どうかしたんですか…?」

突然の出来事に、パチパチと目を瞬かせる月詠。
その様子をジッと見つめ、輝都はそっと月詠の額に自分の手を押し当てた。

月詠(へ!?!?)

思わず月詠はカーッと頬に熱が集まる。

輝都「やっぱりちょっと熱あるんじゃね?なんか顔も赤いし。昼休みもちょっと具合悪そうだったから気になってたんだよ」

少し冷たい輝都の手の温度を直に感じ、バクバクと鼓動が高鳴る月詠。

月詠(顔が赤いのは、先輩のせいです…)

と、心の中で思いつつも何も言えない月詠に対し。

輝都「それにいつも一緒にいる友達も風邪で休みなんだろ?もしかしたらうつったのかもだし、心配だから俺家まで送るわ」

笑顔を向け、隣を歩き出す輝都に月詠はあまりにも予想外の展開にあ然としてしまった。

月詠「せ、先輩!私、大丈夫です。そこまで先輩の手を煩わせるわけには…。それに私、今から彩美にプリントを届けに行くので…あの」

しどろもどろで輝都に声をかける月詠。

そんな月詠に対し。

輝都「じゃあ俺も一緒に行く。月詠の体調、心配だからさそれくらいさせてよ」

輝都が優しげな笑みを浮かべるものだから月詠はそれ以上何も言えなくなってしまった。


◯彩美の家の前(放課後)

月詠(結局、ここまで来ちゃったよ…)

彩美の家の玄関前に立つ月詠と輝都。

一応、学校を出る直前、事前に彩美にはチャットで輝都と行くことをメッセージで送ったものの既読がまだついていないことを月詠は、不安に思っていた。

しかし、ずっとここで立ちっぱなしというわけにもいかず意を決してチャイムを鳴らす。

ピンポーン、ピンポーン。

彩美「は〜い。月詠いらっしゃい、ゴメンね。プリント届けてもらっちゃって…っ!?た、谷先輩!?!?」

ギョッとして月詠の隣に立つ輝都に彩美は、視線が釘付けになっている。

月詠(…やっぱりメッセージ気づいてなかったんだ)

苦笑いを浮かべる月詠と、満面の笑みの輝都。

輝都「どうも。野中さんだったよね、体調大丈夫?」

彩美「だ、大丈夫です。ありがとうございます。えっと…少々お待ちくださいね〜あはは。ちょっと、月詠!」

途中から口角が引きつりつつもなんとか笑顔で対応する彩美が、ちょいちょいと月詠に手招きをした。

月詠「ちょっと行ってきます…」

素直に従う月詠は、玄関先で扉を閉めた瞬間、彩美から「ど、どういう状況なのこれ!?」小声でユサユサと肩を揺すられる。

彩美「なんで谷先輩が一緒にうちの家の前まで来てるのよ!?」

慌てる彩美に対して月詠は簡単に事の経緯を説明する。

月詠「…というわけです」

彩美「……」

あ然としている彩美。
その後、一瞬何か考え込むような難しい表情を浮かべた。

しかし。

彩美「とりあえず理由はわかった。てか、谷先輩をこれ以上玄関先で待たせるわけにもいかないし、また後日話そう!」

月詠「彩美、ゴメンね驚かせちゃって…。体調はもう大丈夫?」

彩美「大丈夫、大丈夫!明日はちゃんと学校行くから」

ガチャと玄関の扉を開けながら、月詠に笑顔を向ける彩美。

彩美「先輩お待たせしてすみません。それじゃ、月詠のことよろしくお願いします」

深々と輝都に頭を下げる彩美に、月詠は目を見開いた。

それは輝都も同じだったようで綺麗な瞳を丸く見開いたかと思えば次の瞬間には。

輝都「ハハッ。任されました。じゃあ、野中さんもお大事に。急に俺まできちゃってゴメンね」

と苦笑したのだった。


◯彩美の家〜月詠の家に向かう道中(放課後)


彩美の家をあとにして、黙々と自分の家に向かって歩く月詠。そんな自分の隣に輝都がいるのが不思議な気分だった。

月詠「…あの、輝都先輩って家はどこなんですか?」

輝都「俺?俺は西町の方」

月詠「え!?それじゃ、うちと真反対じゃないですか!?先輩、私本当に体調大丈夫なんで、ここまでで…」

なんと輝都の家は月詠の家と反対側。(月詠は東町)
自分を送っていくと、輝都の帰りが遅くなってしまい、迷惑をかけてしまうと月詠は気にする。

輝都「反対って言っても、俺の家そんなに遠くないし気にしなくていいって。つか、ここで別れて体調悪そうな月詠を1人で帰すほうが心配」

ドキン。

輝都の優しさに思わず胸が高鳴った。

月詠(先輩はなんで私にこんなに優しくしてくれるんだろう…。まだ話すようになったばっかりなのに。もしかして、先輩も私のこと…)

そんな図々しい考えに思わず頬が赤くなる。

輝都「ほら顔だってやっぱり赤いし、心配だって」

月詠「…ッ」

顔を覗き込む輝都とバチッと視線が絡んだ瞬間、月詠は息をのんだ。綺麗な輝都の瞳から視線がそらせなくなる。

ドキドキと徐々に早くなる鼓動に戸惑いつつ、その日は輝都と肩を並べて月詠は、帰路についたのだった。

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