【マンガシナリオ】コンプレックス同盟
第4話 イメチェン大作戦!
◯更衣室(休み時間)
彩美「…〜っ!なにそれ!?そんなん、めちゃくちゃトキメクじゃんっ!てか、絶対に谷先輩、月詠のこと好きだって!!」
月詠「…そう、かな…?でも、自意識過剰な気もして…」
彩美「いやいや。だって、嫌いな相手と連絡先交換したり一緒に帰ったりするわけないでしょ!」
月詠「うん…。まぁ、嫌われてはないと思うけど…」
次の授業が体育のため、休み時間中に更衣室で体操服に着替えていた月詠は、彩美に昨日の出来事の一部始終を話していた。
体操服に着替え続け、興奮しながら周りのクラスメイトを気にしてヒソヒソ声で話す彩美。
そんな彼女に対し、月詠は未だに信じきれず小さく俯いてしまう。
姉の陽鞠ではなく、自分のことを本気で好きだと思ってくれる相手が本当にいるのだろうか。
なかなか自分に自信が持てない月詠は、ついそんなことを考えてしまっていた。
月詠「だって、私、地味だし…。彩美みたいに話すのも上手じゃないし。だから、正直好きになってもらう要素がわからないっていうか…」
彩美「あ〜もう!じれったいなぁ。よし、決めた。月詠、今日の放課後時間あるでしょ?行くよ!」
月詠「い、行くってどこに…?」
彩美「ふふふ。いいから、ここは私にどんと任せといてっ!さ、体育もがんばろー」
なぜかやる気満々の彩美。
すっかり風邪も治ったみたいでそのことはよかったのだが…。
月詠(大丈夫かな…?)
心の中でそう考え、月詠は苦笑いを浮かべたのだった。
〇ショッピングモール(放課後)
月詠「彩美〜、まだ回るの?」
彩美「うーん、まぁ、とりあえずひと通りは揃えたし。こんなもんかなぁ」
買ったものを確認し、納得したような彩美に月詠はようやくホッと胸をなでおろしていた。
月詠(よかった〜…。正直、これ以上歩くのしんどかったもん)
彩美に連れられてやってきたのは、月詠もよく利用するショッピングモールだ。
ファッションや雑貨類はもちろん、映画館やゲームセンター等も併設されており、休日になると地元の中高生の遊び場となっている。
学校からも徒歩15分くらいに位置しており、放課後寄ることも多いこのモール内を、月詠は彩美に連れられて、かれこれ1時間は歩きっぱなしだった。
彩美「ふぅ。さすがに私も疲れたかも。ちょっとお茶してから帰ろうか」
月詠「…うん!そうしよう!」
コクコクと大きく頷き、月詠は今日いちばんの笑顔を彩美に見せる。
そして、2人はモール内のカフェへ移動。
それぞれ注文を済ませると、席に腰を下ろした。
(月詠は、アイスティー。彩美は、カフェラテを購入)
彩美「とりあえず、月詠はこれで明日から学校にはメイクして行こ!大丈夫。かるーくするだけでも全然違うからさ。せっかくなら谷先輩に可愛いって思ってもらおうよ」
「メイクの仕方は私が教えるし」と言う彩美の目的は、月詠を垢抜けさせ、自信を持ってもらうことだった。
月詠「彩美はメイク上手だけど、私にうまくできるかな?」
普段、メイクなんか全くしない月詠にとってはかなりハードルが高い。
彩美「大丈夫だよ。学校用のメイクだから、本当にちょこっとするだけだし。あと、ヘアケア用品も買ったんだから今日から早速使ってみてね!それ、すっごく髪サラサラになるからオススメだよ」
月詠「サラサラ…。うん、使ってみる。彩美、色々アドバイスしてくれてありがとう。私も変われるように頑張ってみる」
彩美に励まされ、少しやる気がでてきた月詠。
くるくるくせっ毛の髪がコンプレックスのうちの1つだったから、サラサラになるのは願ったり叶ったりだ。
そう。自信やきっかけがなかっただけで、月詠自身も本当は変わりたいと思っていた。
笑顔でお礼を言う月詠は、いつもよりほんの少し晴れやかな表情をしていた。
〇月詠の部屋(夜の21時頃)
月詠「わぁ〜。本当にこのヘアミルク、サラサラになる。それに匂いもいいし」
自室で今日買ったヘアミルクを髪になじませていると、フワッと香るいい匂いになんだかくすぐったい気持ちになる月詠。
その時。
トントンと、月詠の部屋がノックされた。
陽鞠「月詠〜。ゴメン、ちょっと化粧水切らしてて貸してくれない?」
月詠「お姉ちゃん?いいよ〜」
やってきたのは寝巻き姿の陽鞠。
相変わらず羨ましいくらいスベスベな肌は生まれつきだとしか思えない。だって、食べてる物だって、化粧水だって月詠と同じものを使っているのだ。
だから、こういう風に時々姉妹間で貸し借りをしたりすることもあった。
陽鞠「わーい。ありがとう、助かる」
部屋の中に入ってきた陽鞠は、机に置かれた化粧水をだしながらふいにドライヤーをする月詠を見つめる。
月詠「お姉ちゃん、どうかした?」
陽鞠「ん?なんか良い香りだな〜って。ヘアミルク?」
月詠「うん。彩美に教えてもらってね、サラサラになるんだって。お姉ちゃんも使ってみる?」
月詠が差し出したヘアミルクを見つめ、陽鞠は「へぇ〜」と瞳を輝かせた。
陽鞠「え。いいの?ありがとう〜。てか、月詠今までヘアケアとかそこまで気にしてなかったのにどういう心境の変化?」
ヘアミルクを手に出し、クスッと茶化すような視線を向ける陽鞠。
月詠「べ、別に…。私ももう高校生だしちょっと気を使おうかなって思っただけで」
ふいっと視線をそらしながらドライヤーをする月詠。
なんだか陽鞠には全てを見透かされている気がして、緊張してしまう。
陽鞠「ほぉ〜。そうなんだぁ」
不敵な笑みを浮かべた月詠は「あ…!ちょっと待ってね」と思い出したように自分の部屋に戻っていく。
そして。
陽鞠「これ、月詠にあげる」
満面の笑みで戻ってきた彼女の手には、可愛らしい香水の瓶が握られていた。
月詠「香水?」
陽鞠「そ!ちょっと試しに買ってみたやつなんだけど、この匂い月詠のほうが似合うと思うんだよね〜。ちょっとふわっと最後にバニラの匂いがするんだ」
シュッ―。
そう言って、陽鞠は室内に向かって香水をワンプッシュする。
月詠(わあ、本当だ。良い香り)
月詠「私は嬉しいけど…。お姉ちゃんいいの?」
陽鞠「うん、もちろん。化粧水貸してくれてありがとね。じゃ、私は部屋に戻るわ」
パチンと、最後に素敵にウインクをした陽鞠から受け取った香水を手に取り、月詠は部屋に残る甘い香りになんだか、少しだけ大人になったような気がして、嬉しくなったのだった。
〇自宅(早朝の学校へ行く前)
翌日、早起きした月詠は早速彩美にならったスクールメイクを実践していた。洗面台の前で格闘すること数十分。まだまだ改善の余地はありそうだが、なんとかできたことにホッとする。
昨日使ったヘアミルクのおかげが、いつもより寝癖もなくてなんだか髪もまとまっているからか、朝から気分が良い。
月詠(あ、そうだ…!せっかくだしお姉ちゃんにもらった香水ちょっとだけつけていこうっと)
そう考えた月詠はシュッと、ほんの少しだけ手首に香水をつけてみた。瞬間香る甘い匂いにくすぐったい気持ちになる。
母親「あ、あら。月詠ってば今日は早起きね」
身支度を整え、リビングに顔を出すと母親が驚いたような視線を月詠におくった。
どちらかと言えばいつもギリギリの時間に起きてくる月詠が姉の陽鞠より早くリビングにやって来たことに驚きを隠せない様子だ。
月詠「お母さん、おはよう。うん、ちょっと早く起きれたから」
ダイニングテーブルに座り、朝食に手を付けようとした時、制服に着替えた陽鞠も姿を現す。
陽鞠「お母さん、おはよう〜。って、月詠??」
月詠「お姉ちゃん、おはよう」
陽鞠「今日早いじゃん…。ん?というか…」
月詠の顔をまじまじと見つめ、なにか察したように「はは〜ん」とつぶやいた。
姉 陽鞠の意味深な表情に「もしかしてメイク変?」と心配になる月詠。
月詠「変…かな?」
陽鞠「ううん。いつものことながら私の妹は超可愛いな〜って再確認しただけ。てか、私、ヘアアレンジやってあげるよ」
母親が陽鞠の朝食を準備する数分の間で、月詠の髪を編み込み始めた。
相変わらず我が姉ながら手先も器用でなんでもできるなと関心していると。
母親「まったくあいあわらず、陽鞠は昔から月詠に構いたがるんだから」
姉の分のトーストが焼けたみたいでスープとサラダを運びながら母親が呆れたように呟く。
母親「そういえば月詠が幼稚園の頃もそうやってよく三つ編みとかしてあげてたわよね。最近は登校も一緒にしてないし、話さなくなったのかなと思ってたけど、仲良しみたいで安心したわ」
月詠「……」
母親の嬉しそうな顔を見つめ、月詠はハッとした。
たしかに小さい頃と比べると姉と話す機会は減ったかもしれない。
もちろん、お互い高校生になって忙しくなったのはあるが、月詠が中学に入る前までは休日は2人で遊びに出かけたりもしていた。
でも、同級生男子に陽鞠を紹介してほしいと声をかけられるようになった中学生頃から、めっきりその回数は減っていたように思う。
今考えると、なるべく陽鞠との関係をつつかれたくなくて、登校時間も無意識にずらしていたのかもしれない。
陽鞠「お母さんが心配しなくても私達はずっと仲良しだよ。だって、たった2人の姉妹なんだから」
陽鞠の綺麗な横顔を見つめ、月詠はキュッと胸が締め付けられるような思いにかられた。
月詠(そうだよ。美人で頭も良くて、優しくて…。お姉ちゃんは昔から私の憧れだった)
周りの言葉を鵜呑みにし、姉に対して勝手にひとりでコンプレックスを感じていた月詠。
でも、姉のことを苦手だとは感じていても嫌いだと思ったことは一度もなかった。
月詠「お、お姉ちゃん。髪ありがとう。あのさ、よかったら今日久しぶりに学校一緒に行こう…よ」
月詠は意を決して、陽鞠にそう声をかける。
なんだか気恥ずかしくてつい下を向いてしまった。
陽鞠「え!いいの!?うん、行こ行こ!!ちょっとまってね。すぐ朝ご飯食べちゃうから」
パァッと瞳を輝かせ、トーストを急いで食べ始めた陽鞠の様子をポカンとした表情で見つめる月詠。
そんな姉の様子に思わずクスッと心の中で笑みをこぼす。
月詠(そんな必死にならなくても…)
普段、あまり見ない勢いで朝食を食べる陽鞠。
今まで勝手に姉に感じていたコンプレックスやわだかまりが少しずつ解けていくのを感じていた。