【マンガシナリオ】コンプレックス同盟
第5話 それぞれの想い

◯月詠のクラス(ホームルーム前)

男子A「お、おい。あれって…」

男子B「え?マジ!?」

自分の教室に入ると、やたら視線を感じ、肩身が狭くなる月詠。普段なら月詠が入ってきたって気にもとめない男子生徒が驚いたように口をあんぐりあけている。
それは同じクラスの女子生徒も同様で。
さらには、ヒソヒソ声も聞こえてきて、悪口を言われているのではないかと卑屈な気持ちになってしまう。

月詠「彩美、おはよう…」

彩美「つ、月詠?すごいじゃん!めちゃくちゃ可愛いよ〜。やっぱり元がいいとちょっとメイクしただけで違うわね〜。髪も自分でしたの??」

月詠「ううん、お姉ちゃんがしてくれたの。それよりも私の格好変じゃない…?さっきからなんかヒソヒソ話されてるから…」

彩美「全然っ!むしろめちゃくちゃ良いよ。アイツらやっと月詠の可愛さに気づいてビビってんのよ。あーいい気味!」

ニヤリとほくそ笑む彩美に月詠は苦笑いを浮かべる。

彩美「それにしても陽鞠先輩って手先まで器用なんだね…!しかも月詠にすっごい似合ってる。さすがお姉ちゃん!」

月詠「…うん。えへへ」

照れ笑いした月詠に対し、彩美は驚いたような表情だ。
その表情の理由を月詠はなんとなく察することができていた。

月詠(いつもの私なら否定するところだもんね…)

きっと、彩美も月詠に何か心境の変化があったことは勘づいているはず。でも、空気を読んでか無理に追求してこない彼女の心遣いが月詠にはありがたい。

キーンコーンカーンコーン。

その瞬間、始業のチャイムが鳴り、彩美も自分の席へと戻っていった。

1限目は数学の授業。チャイムと同時にやって来た数学の先生は早速授業を始める。
教科書とノートを開き、指示された問題を解き終わった月詠。そして、ぼんやりと先ほど久しぶりに一緒に登校した陽鞠との出来事を思い出した。


〇(回想)陽鞠と月詠登校中・自宅〜学校へ行く道のり

月詠(なんか見られてる…?やっぱりお姉ちゃんって、歩いてるだけでも目立つんだなぁ)

大通りに近づくにつれ、チラチラと感じる視線に月詠はドギマギしてしまう。陽鞠は普段からこんな視線に晒されているのだろうかと思うと美人も大変だと改めて感じていた。

月詠(そういえば、中学時代はお姉ちゃん、ストーカー被害にもあってたんだよね)

犯人は結局捕まらなかったが、陽鞠は数回下校中に跡をつけられたことがあった。
あの時の陽鞠はさすがに怖がっていて、しばらく登下校は両親が送り迎えをしていたことを思い出す月詠。

陽鞠「今日は月詠もいるから、いつもよりチラ見してくる人多いわね…」

月詠「…?」

ポツリと呟いた姉の言葉に陽鞠は首をひねる。

月詠(私もいるから…?)

姉の呟いた意図がわからず、1人考えていた時だった。

近所のおばさん「あらあら!陽鞠ちゃんに月詠ちゃんじゃない?久しぶりね〜。まぁまぁ、大きくなって!」

驚いたような声が響き、2人を呼び止めたのは、小さい頃、陽鞠をお姫様みたいねと褒めた近所のおばさんだった。

陽鞠「わぁ…!おばさん、お久しぶりですね。おはようございます」

月詠「…おはようございます」

10年以上前のことで、だいぶ年をとっているが、当時の面影が残っている。たしか数年前に息子夫婦の家に引っ越していき、それ以来会っていない。

近所のおばさん「久しぶりにこっちに顔をだしたのよ〜。まあ、陽鞠ちゃんますます綺麗になって…!」

笑顔で陽鞠に声を掛けるおばさんは相変わらず陽鞠のことがお気に入りのようだ。

近所のおばさん「月詠ちゃんは…」

そして、今度は月詠に視線を向ける。
当時のことを思い出し、月詠は緊張で体が硬直してしまう。あの時、おばさんの言葉をきっかけに月詠は陽鞠との格差を感じてしまったから――。

近所のおばさん「あらあら。さすが姉妹ね〜。別嬪さんになっちゃって」

月詠(え…)

予想外のおばさんの言葉に、月詠はパチパチと目を瞬かせる。

陽鞠「うふふ。でしょ〜?」

近所のおばさん「ほんとにねぇ。これじゃ2人とも男の子が放っとかないでしょ」

キャッキャッと、楽しそうに陽鞠と話す近所に住んでたおばさん。月詠は呆気にとられた表情でそんな2人のやり取りを見つめることしかできなかった。

(回想終了)


〇月詠のクラス(1時間目の授業中)

月詠(もしかしたら今まで、私の考えすぎだったのかもしれない…。あの頃はお姉ちゃんみたいに可愛くなりたいって自分自身でも思ってたし、勘違いや思い過ごしもあったのかな?)

今日久しぶりに会ったおばさんとのやりとりを思い出し、そんなことを考える月詠。

当時の胸のつかえがとれたような気さえもしていた。

ちらりと窓の外見ると、9月の秋晴れが広がっている。

その空は、今の月詠の心を反映しているかのように澄み切った綺麗な青空だった。
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