【マンガシナリオ】コンプレックス同盟
第6話 生徒会のお手伝い

〇自宅(ダイニングで夜ご飯)

今日は仕事で両親の帰りが遅いから、月詠と陽鞠、2人きりの夜ご飯。
こういう日は、部活も何もしていない月詠が夜ご飯を担当している。ちなみに今日のメニューはカレーライスだ。

陽鞠「ハァ…」

月詠「お姉ちゃん、最近ため息多いね…。大丈夫?」

陽鞠「まぁねぇ、もうすぐ文化祭でしょ?生徒会のほうが準備忙しくて」

疲れているせいで食欲がないのか「ごちそうさま」と言う姉のお皿の中のカレーは半分以上残ったまま。

ただでさえ細い陽鞠が、ご飯を食べないことに月詠は心配になる。

月詠「生徒会ってそんなに忙しいんだね…。お姉ちゃん、私が手伝えることあったらしようか?」

陽鞠「月詠…!本当にあんたはできた妹だわ〜。ありがとう〜」
 
月詠の言葉にウルウルと瞳を潤ませる陽鞠。
感激してギュッと後ろからハグをされ、月詠もちょっと照れくさい気持ちになる。

月詠「私別に部活とかもしてないから放課後はそんなに忙しくないし。雑用とかでよければするよ」

陽鞠「じゃあ、ちょっとだけお願いしてもいい?実は明日の放課後、生徒会の買い出しがあってね…そうだっ!」

そこまで言いかけた陽鞠は、何か思いついたのかニヤッと不適な笑みを浮かべた。

月詠「お姉ちゃん…?」

陽鞠「えっ、あぁ〜。じゃあ、明日買い出しお願いしてもいい?月詠だけだと〜荷物大変だから、1人お供つけるわね」

月詠(…?)

意味深に微笑んだ陽鞠はスマホを片手に誰かにメッセージを送っているよう。
その笑みの意図はわからないが、とりあえず買い出しの手伝いをすることになった月詠。
この時の月詠は、陽鞠の口から出た「お供」が誰なのかまだ知らずに「何買いに行くのかな?」とのんきにそんなことを考えていたのだった。


〇学校の校門前(放課後)

翌日の放課後、陽鞠に指定され、学校の校門前に立つ月詠。昨日の家でのやりとりから、生徒会の手伝いで文化祭で必要な物品の買い出しをすることに。
しかし、未だに誰が一緒に来るかわからず月詠は1人ソワソワする。

月詠(お姉ちゃん、ここで待っとけばすぐ人を向かわせるって言ってたけど…。まだかな?)

その時。

輝都「あ、月詠いた」

月詠「……へ?輝都先輩!?なんで…」

笑顔の輝都に声をかけられ、一瞬思考停止する月詠。

輝都「なんでって生徒会の買い出し山城先輩に頼まれたからさ」

月詠「…そ、そうだったんですね」

月詠(お姉ちゃんってば、昨日ニヤニヤしてたのはこういうことだったのね…!)

陽鞠の笑みの理由を理解し、月詠は急に恥ずかしくなる。
陽鞠に輝都のことを気になっていることがバレているだろうとは思ってはいたが、まさかこんな援護射撃を受けるとは。

それに言われてみれば時期生徒会長候補の輝都は、生徒会所属なわけで、生徒会の誰かをお供に付けるという陽鞠の言葉はあながち間違いではない。

輝都「それじゃ行こうか。結構買い出し多いから月詠もよろしく」

月詠「は、はい!」

輝都に促され、ドギマギしながら返事をする月詠。
2人きりの買い物にただの生徒会のお手伝いだとわかっていても緊張してしまう。

月詠(なんかデートみたいだな)

なんて妄想までしてしまう始末。

しかし、まさか今日。
とある人物と再会することになるなんてこの時の月詠は想像もしていなかった――。


〇学校近くのショッピングモール(買い出し中)

先日彩美と訪れたショッピングモールにやって来た輝都と月詠。商業施設が集合していることからも、一気に欲しいものが揃うショッピングモールはとても便利だ。

まずは1階にあるホームセンターへ。

月詠「先輩、とりあえず何買います?」

輝都「えっと、山城会長から買い出しリストもらってるからチャットで送るな」

そう言って、スマホを操作し、輝都は月詠に買うものリストを送る。

月詠(うわぁ、結構色々あるなぁ。のり、両面テープ、カラースプレー…)

パット見20項目はあるリストに、これは手分けして探したほうが早そうだと感じた月詠は輝都に向かって。

月詠「輝都先輩、とりあえず手分けして商品探します?私、上にある10個先に探すので、先輩は下の10個お願いします!じゃあ、そろったらここに集合で」

そう言葉をかける。

予想以上にテキパキと動く月詠に驚く輝都を残し、月詠はホームセンター内に進んでいく。先ほどまで緊張はどこへやらサッと素早く店内を移動し始めた。

輝都「ハハッ。月詠って相変わらず真面目だな」

そんな月詠の背中を見て、クスッと微笑み輝都は小さくつぶやいたのだった。





月詠「あとは、カラースプレーかぁ…。どこにあるんだろう」

10分ほど店内を回り、月詠は最後のリスト項目にあるカラースプレーを探していた。
おそらく何かの看板などで使う予定なのだろう。
キョロキョロとあたりを見回していると、ようやくお目当てのカラースプレーを月詠は発見した。

月詠(あった…!けど、結構棚の上にあるなぁ…。店員さんに取ってもらうように頼む?それか、近くに脚立みたいなのないかなぁ…)

カラースプレーの棚の前に立つと、予想以上に高い位置に置かれているため、どうしようかと迷っていると。

?「これか?」

誰かが月詠の背後から、サッとカラースプレーを取ってくれた。声から若い男性ということがわかる。

月詠「あ…!はい。そうです、ありがとうございます」

カラースプレーを受け取り、お礼を言いつつ振り返る月詠。

その時、カラースプレーを取ってくれた男性と視線がからむ。目の前に立つのは、私服姿の背の高い男の人。
年は月詠と同い年か少し上くらい。もしかしたら大学生かもしれない。
長身で大人っぽい顔立ちに、切れ長の目。少し明るめの髪色。何かスポーツでもやっているのか均整のとれた体つきをしている。
輝都とはちょっとタイプの違うイケメンだ。

?「もしかして…山城月詠?」

先に月詠の名前を呼んだのは、長身の彼。
急に知らない男の人に名前を呼ばれて月詠はぎょっとする。

月詠「なんで、名前…」

晴稀「やっぱり…。久しぶりだな。俺、吉田晴稀」

月詠「…!!吉田くん!?すっごく身長高くなっててわかんなかったよ。久しぶりだね」

なんとカラースプレーをとってくれたのは、中学1年生の時に同じクラスだった吉田晴稀だったのだ。

昔よりも身長が伸びてるし、顔つきも大人っぽくなってて気づかなかったがたしかによくよく見ると面影がある。

晴稀「中学から10センチ以上伸びたからさ。山城は…相変わらず可愛いな」

月詠「…へ!?」

フッと素敵に微笑む晴稀の口から出たその言葉に月詠は、目を丸くしてカチンと体が固まってしまった。

月詠(今の聞き間違え…?というか、吉田くんってそんなこと言うタイプだったっけ?)

晴稀「つか山城1人?俺、今日こっちに戻ってきたばっかでさ。時間あるならちょっと話さない?」

月詠「あ、私…」

「買い出しの途中で」と言いかけた時。

ガシッ。

輝都「月詠、大丈夫か?」

月詠「輝都先輩」

月詠の腕をつかみ、自分の背中に隠すように立ちはだかったのは輝都だ。予想外の行動と距離感に月詠はドギマギしてしまう。

輝都「お前、誰?」

月詠「あの、彼は中学時代の同級生で…」

輝都「中学の…。そっか…。ナンパにでもあってんのかと思って焦ったわ」

どうやらたちの悪いナンパにでもあっていると思ったのか、月詠の口から知り合いだということを聞いて、輝都は少し表情をやわらげた。

そんな月詠と輝都のやり取りを黙って見つめていた晴稀は「山城と同じ中学の吉田晴稀です」と自己紹介をした後、おもむろに「…山城の彼氏?」と問いかけてくる。

月詠「ち、ちがうよ!同じ学校の先輩。今日は文化祭の買い出しにきてたの」

さすがに輝都が自分の彼氏だなんておこがましいと、月詠は顔を赤くしながらもブンブンと首を横に振った。

輝都「……」

若干、複雑そうな表情を浮かべている輝都にその時の月詠は気づかない。

晴稀「なんだ、違うんだ。それならよかったわ」

ニコッと素敵な笑みでそんなことを呟く晴稀。

月詠(よかった…?)

晴稀「実は俺、こっちにまた戻ってきたんだ。で、俺が戻ってきたから、中学時代の奴らと集まろうって最近話しててさ。よかったら山城も来いよ」

月詠「う、うん、そうだね。都合が合えば…」

晴稀「よっしゃ。じゃあまた連絡するわ」

突然の誘いに戸惑いつつも、断る理由もとくになく月詠はコクリと頷く。

嬉しそうに目を細める晴稀は、最後に「山城、文化祭の準備頑張れよ。山城の先輩も失礼します」と輝都に対してもしっかり挨拶をし、手を振りながらその場を去っていった。

輝都「月詠、アイツと仲良かったんだ?」

月詠「うーん…。そうですね、中学1年の時同じクラスでしたけど、吉田くん途中で引っ越しちゃったんでそこからは疎遠になっちゃったんで」

輝都「へぇ……」

なぜかほんの少し輝都の声色が低い気がして月詠は首をひねる。しかも、その後口数の少ない輝都。

月詠(輝都先輩どうかしたのかな…?)

月詠「えっと…。あ!輝都先輩、リストの商品全部ありました?」

とりあえず何か声をかけようと、もともとの目的であった買い出しについて話題をふる月詠。

輝都「あぁ。とりあえず、買いに行くか」

サッと月詠が持っていたカゴを取り、輝都はレジへと足を進める。ちょっとした気遣いに月詠は少し胸がくすぐったくなった。

結局、それ以降は、普段通りの様子に戻った輝都。

機嫌が悪そうだったのはきっと自分の気の所為だったんだなと、月詠も1人で納得したのだった。
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