先輩と、コーヒーと
1st
「はぁ……」
淡いオレンジと、青色が混ざる空の下。
今日返却された数学の小テストの『69』という数字を見て、私はため息をつく。
この点数を見たら、お母さん絶対怒るだろうな。
放課後。いつものように高校の校門を出て、駅へと向かって歩きかけていた私の足が、ピタッと止まった。
「家に帰りたくないな……」
そう呟く私は、黒川柚希。高校1年生。
私の家は、曽祖父から祖父、父と3代に渡って医者という家系だ。
そのため、ひとり娘の私にも将来は医者になって欲しいと願う両親……特に母は教育熱心で、学校の成績には人一倍うるさい。
高校に入ったら、何か部活をやりたかった私だけど、部活をする時間があったらその分勉強をしなさいと言う母に許してもらえず、今に至る。
──『まあ、69点って! 柚希、なんて点数をとってるの!?』
小テストの答案を見せたときの母を想像し、私は気が滅入る。
……やっぱり今日は、どこか寄り道して帰ろう。
いつもは学校が終わったら、真っ直ぐ駅に行って帰宅する私だけど……たまにはそうじゃない日があっても良いよね。
私は踵を返すと、駅とは反対方向へと向かって歩き出した。
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