先輩と、コーヒーと
そして、彼は私に向かってペコッと会釈。
琉星さんにつられて、私も軽く頭を下げた。
さっきの女性の店員さんと違って、琉星さんは笑わないけれど。
サイフォンでコーヒーを淹れる彼の姿は、とても生き生きとしている。
「お待たせしました」
しばらくして琉星さんが、カウンター越しにコーヒーを差し出した。
使い込まれたこぶりのカップからは、豊かな香りが立ちのぼる。
「あと、これもどうぞ」
コーヒーに続いて琉星さんがカウンター越しに差し出したのは、シフォンケーキ。
ケーキのそばには、ホイップクリームとミントが添えられており、食欲をそそられる。
だけど……。
「えっと、すいません。私、ケーキは頼んでないです」
「これはサービスです。なんだか、元気なさそうだったから……」
「え?」
「いえ。学校、いつもお疲れ様です。どうぞごゆっくり」
琉星さんの唇が、わずかに弧を描く。
えっ、今……笑った!?
ほんの一瞬だったけれど、こちらに向かって小さく微笑んだ彼に私の胸がとくんと高鳴った。