傷だらけの令嬢〜逃げ出したら優しい人に助けられ、騎士様に守られています〜

19

ベンチへと腰掛け、荷物を横に置く。ケーキには保冷の為に氷を入れてもらっている。
辺りを見回し、行き交う人々を眺める。

みんな楽しそう。 
私は…
私も楽しそうに見えてるかな。
父や義姉の目を気にしてビクビクしてたあの頃と違って、今は、とても、自分らしくいられる。ルイーザさんと出会えて、グレッグ様にも親切にしてもらって、恵まれすぎてる。
澄み切った空を見上げて、正面に顔を戻すと、グレッグ様がちょうどこちらへと歩いて来る所だった。

「ソフィア」

『ありがとうございます。あのおいくらでしょうか?』


差し出されたカップを受け取り、尋ねる。

「大丈夫だ」

『いえいえ、そんな訳には』

私は慌ててお支払いしようと財布を出そうとする。

「では、次回はソフィアが奢ってくれたらいい。」

『え?』

グレッグ様はそれ以上何も言わずに、ドリンクを飲んでいた。
手渡されたドリンクは、アセロラジュースだった。上にスライスしたレモンが乗っているジュースで、この辺りではごく一般的な飲み物だ。
私は、コップを見つめて、一口飲む。
いつもよりとても美味しく感じた。

『では、その、機会があれば次は私が奢りますね。』

「あぁ。楽しみにしてる。
ソフィア、一緒にお昼はどうだ?」

グレッグ様に問われて、私は大事なことを思い出す。

『あの、すみません。
今日は午後から三日月亭のお仕事をお手伝いする予定で。 せっかくなのにすみません』

私は軽く頭を下げる。

「もう大丈夫なのか?」

『はい。怪我もほとんど治りましたし、いつまでもルイーザさん達に甘える訳にいかなくて。今日から働かせてもらうつもりです』


「そうか。ではあまり長居してはいけないな。飲み終わったら戻ろう」


『はい』


私達はドリンクを飲み終えると、三日月亭へと向かった。

私は、グレッグ様へ手袋をいつ渡そうかずっと悩んでいた。

『あの、グレッグ様。本日はありがとうございました。
 あの、今日の、お礼といってはなんですが、先程暖かそうな手袋を見つけたので、その、もしよろしければ使っていただければと』

私は緊張して上手く話せず、手袋を渡すと、お辞儀をして急いで三日月亭へと駆け出した。

「ソフィア」

後ろから声をかけられて振り向く。

「ありがとう。
また来週来る」

『へ?』


そう言うと、グレッグ様は立ち去って行った。

来週?
もしかしてまた一緒にお出かけできるのだろうか。色々と悩みながら中へと入る。

ルイーザさん達にお土産のケーキをお渡しして、久々に宿のお仕事を始めた。


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