傷だらけの令嬢〜逃げ出したら優しい人に助けられ、騎士様に守られています〜

23

私達は応接室へと通された。
グレッグ様と私は隣同士にソファーへと腰掛ける。
テーブルには紅茶が用意されていた。

「人払いはしてあるから、クレア…少しは落ち着いた?」

お母様はクレア様を気遣われていた。

「えぇ。ありがとうクレア。そしてグレッグ殿、ソフィア嬢、先程は取り乱してごめんなさいね。」


『いえ…』
「フォルスター夫人が取り乱されるなど、余程何か予期せぬことがおこったのでしょう」

「予期せぬこと…えぇそうね。
グレッグ殿もあまり社交の場には顔を出されてないですものね。
私の孫、今の当主の娘にあたるリリアーナもあまり社交の場に出ていなくて…困ったもので。だから顔を知らなくても当然ね

そちらの方がリリアーナにそっくりで…」

フォルスター夫人はそこで言葉を区切ると、お母様に「もう大丈夫だから」と目配せするように視線を送る

その視線を受けたお母様は、寄り添っていたフォルスター夫人から少し距離をとった。



「ここには信用できる方しかいませんものね。実は…

その昔わがフォルスター侯爵家には、
今の当主の兄に当たる長男のロバートがおりました。

幼い頃からロバートは優秀で、手のかからない子でした。私共は将来安泰だと喜んでおりました。ですが…

あれはあの子に婚約話を勧めようとした時でした。

ロバートは、既に心に決めた方がいると、その方以外とは結婚はしない、と申しておりました。

それでもそのお相手の方が、私共の候補に上げている方ならば良かったのですが…
お相手の方は男爵家のご令嬢でした。

フォルスター侯爵家が男爵家の令嬢と結婚など、当時の私達は許せることではありませんでした。
それからです。私達とロバートの間に亀裂が入ったのは…。
 
何度も説得を試みました、
お相手の方にも。ですがある日、ロバートは爵位相続権を放棄して、行方知れずになりました。 

侯爵家の名誉に関わる問題です。私共はロバートは病気療養ということにしました。

 一度だけ手紙が届きました。
身勝手なことをした事に対する謝罪と、
今はメアリーと暮らしていること、もうすぐ子供がうまれること。
 
もしも男の子が生まれた時は「ルーク」、女の子の時は「ソフィア」と名付けるつもりだと書いてありました。
 
捜さないでほしいと締め括られていました。私共も意地をはってしまって。
そのまま…捜そうとはしませんでした。
 

メアリーとは、メアリー・エリオット男爵令嬢です。

ソフィア、あなたはロバートにそっくりです。あなたにとってはいとこにあたるリリアーナにもそっくり。一瞬見間違えたわ。

あの子は…元気にしてる?」

どこか懐かしさを感じるフォルスター夫人の問いかけに、すぐに返答が出来なかった。

だって、
私はノーマン伯の娘では…
父と義姉の顔が頭をよぎり言葉が上手くでてこない。

「ソフィア?」

思い詰め黙り込む私の手をグレッグ様がそっと握る。

その手の温もりのおかげで我に返り、なんとか言葉を紡ぐ

『私の…私の母は、
10歳の頃に亡くなりました。』

クレア様は哀しみの表情を浮かべた

「そう…だったのですね、とても残念だわ…
では、あなたはそれからロバートと?」

『私は…』

私は自分の生い立ちを誰にも知られたくなかった。

でもクレア様は母のことを知っている。
私の父のことも

優しく包むように重ねられたグレッグ様の手を、ぎゅっと握りしめてグレッグ様を見上げる

『グレッグ様…これからお話しすることは、グレッグ様が以前お尋ねされたことの、証言にもつながることです。
グレッグ様…。
本当は知られたくないことです。
どうか、嫌いにならないでください…』

不安や緊張がこらえきれず、涙が頬をつたう。

「ソフィア、大丈夫だ。」

グレッグ様は優しく握りしめた手に力をこめ、反対の手で涙を拭ってくれた。

優しげな眼差しで見つめられて、昂った感情が落ち着いていく

深く深呼吸をしてから意を決して言葉を発した

『クレア様、ルイーズ様、グレッグ様、これからお話しする事は、ある方を貶める内容に聞こえるかもしれません。
ですが、本当のことです。
私なんかの発言を信じてもらえるか分かりませんが…聞いて下さい』
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