傷だらけの令嬢〜逃げ出したら優しい人に助けられ、騎士様に守られています〜

27 真実①

あれから、三日月亭に帰るまでの記憶はあやふやだ。

衝撃的な話を聞いてパニックになりかけて、その後馬車の中で…。

随分と長い時間だった気がする。

思いだす度に、羞恥心から思わず叫びだしたくなる。


いったい私はどうしてしまったの


あろうことかグレッグ様の胸に顔をうずめて……


座っていた場所はグレッグ様の膝の上。


まるでいわゆるお姫様だっこのような状態。


思わず「きゃぁー」と叫びながら一人身悶えしてしまう。

挙動不審になりつつも、なんとか平静を保とうとする。


けれど、精神的ショックからの疲労の色は隠せないでいた。

ルイーザさん達は、まるで何かを察したかのようにそっとしてくれた。


 私自身も、とても仕事に集中できる状態ではなかったので、無理を言ってしばらくの間休ませてもらうことにした。


グレッグ様とはあの日以来会えていない。

時々手紙のやり取りをしている。

今はノーマン伯の件から手が放せないので、しばらく会えないという。



 そんなある日、クレア様よりお手紙が届いた。三日月亭のことは、グレッグ様より教わったそうだった。
 

✳︎✳︎✳︎

「親愛なるソフィアへ

突然の手紙を許してちょうだい

元気に過ごしているかしら?


先日はごめんなさいね。

こんなに簡単な謝罪の言葉では言い表せないほどに、申し訳なく思っています。


あなたにとっては大変ショックな話だったわよね。

すべてが落ち着いたら、また会えることを願っているわ。



あなたの存在のことを家族に打ち明けました。

突然のことで、皆すぐには信じられないようです。


各々内密に調べるようなの。

ソフィア、つらい過去のことも知られてしまうと思う。


今まで苦しんできたのに、あなたをさらに苦しめて、不快な思いをさせてしまうのではないかと危惧しているわ。

あなたを孫として認知するために必要なこととはいえ、こちら都合で本当にごめんなさい。

何かあれば遠慮なく訪ねて来てちょうだいね。

あなたの祖母 クレア 」

✳︎✳︎✳︎

家族…

私にはもう誰もいないと思っていたけれ

ど、こうして気にかけてくれる方がいる。

おばあさま。
 
もしかして、母方の祖父母もご健在なのだ

ろうか。 クレア様に今度お尋ねしてみて

もいいのだろうか。


それからしばらくの間は、自分自身と向き合い、気持ちの整理を試みて過ごしていた。


✳︎✳︎✳︎

━数週間後━

「ソフィア。今、ちょっといいかい?」

ルイーザさんの呼ばれて、階下に降りて行くと、そこにはグレッグ様が佇んでいた。

『グレッグ様』

久しぶりに会えた嬉しさで思わず駆け寄る。

「ソフィア。例の件のことで来た。外へ出られるか?」

私は頷くと、ルイーザさんに出かける旨を伝えて、グレッグ様と共に外へと向かった。


「例の件、やっと処分が決まった」

『え』

処分…。

「あぁ。彼等には己の罪の重さを思い知ってもらわなければ。今からノーマン邸に向かう。その前にソフィアに報告したくて来た。」

『あ、あの、グレッグ様。私も連れて行ってはもらえませんか?』


正直二度と会いたくはないのだけど、どうしても、尋ねたいことがある。

「それは…」

グレッグ様は悩んでいるようだった。

『どうしても、尋ねたいことがあるのです』


「少しだけ待ってもらえるか。
隊とは別行動で行く旨を伝える必要がある。」

グレッグ様は伝言を伝えに一旦本舎に向かって行った。


しばらくして、グレッグ様は馬に乗って戻って来た。

「ソフィア、隊員もすぐに向かうようだ。話す時間はあまりないかもしれない。急ぐぞ。馬に乗ったことはあるか?」

私は首を振る。グレッグ様は私を抱え上げて馬に乗せてくれた。

「しっかりと捕まって」


後ろからグレッグ様に抱きしめられるような体勢になっていた。

身体が密着してグレッグ様の息遣いも感じられる。

恥ずかしさから心臓が飛び出しそうなくらいに早鐘をうつ。

だが、馬が走り出すと何も考える余裕がなくなった。

グレッグ様が後ろから支えてくれているとはいえ、振り落とされないように必死にしがみついていた。


「見えてきた」

グレッグ様の声を聞き、私は邸宅を見つめる。

あぁ…またこの邸に来てしまった。

もう二度と来たくないと思っていた場所。

今までの記憶が甦ってきて恐怖から小刻みに身体が震える。

「ソフィア。一緒にいるから大丈夫だ。
無理して行かなくてもいい。」

グレッグ様は、怯える私を優しく励ましてくれる。

『…大丈夫です』

敷地内に入るとグレッグ様は馬を止めて、私を抱え下ろしてくれた。

グレッグ様の後を追うように邸の中を一緒に走った。

「騎士さま。なにごとですか」

途中何度も呼び止められたが、私を庇いつつグレッグ様は真っ直ぐに進む。 


「王命だ!ノーマン伯はどこだ!」

各部屋の扉を開けノーマン伯を捜索した。

そして、私達はついに書斎にいるノーマン伯をみつけた。


「これはこれは、

若造が何の用だ。

お前は…いなくなったと聞いていたが戻

ってきたのか」

ノーマン伯はグレッグ様を一瞥した後、私の存在に気づき目を細める。

「王命により、ノーマン伯、貴殿を拘束する!」


「なんだと?」

一切動揺することなくノーマン伯は私達に向き合っていた。その瞳からは何の感情も読み取れない。


こうして正面から向き合うのはいつぶりだろうか。

それとも初めてかもしれない。

まともに目を合わせることができなかったから。

こわい…

ノーマン伯が一歩動くだけで、ビクッと全身が硬直する。金縛りにでもあったように。

幾度となくぶたれた記憶が蘇る。

恐怖から声がなかなかでてこない。

どもりながらも、どうしても尋ねたいことを口にする。


『あ、あの、あなたは…あなたは

どうして私を引き取ったのですか?

わ、私の父親というのは本当のことで

すか?』

私の言葉を受けたノーマン伯が立ち位置を変えるようにゆっくり移動する。

ドッドッドッと自分の鼓動がうるさくなる。 手を握りしめてノーマン伯の返答を待つ


「どうしてか…

はっ。

理由か。




理由は、ただの復讐だよ。



そもそもお前の父親は私ではない。」

『!』

意外なことにノーマン伯は、私達に真実を

話し始めた。







 
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