傷だらけの令嬢〜逃げ出したら優しい人に助けられ、騎士様に守られています〜
1
「せんぱーい、グレッグせんぱーい」
「キース、何度も言っているが無駄に語尾を伸ばすのをやめろ。もう少しきちんとした話し方ができるだろう?
騎士として恥ずかしくない言動をだな…」
治安隊本舎内の廊下にて、グレッグは後輩のキースに呼び止められていた。
キースはいつも間の抜けた物言いをするが、その話し方とはうらはらに剣の腕はかなりのものだ。
有事の際には、自分の背後を任せてもいいと思うほどには信用している。多少、お調子者ではあるが。
「えー、ちょっと難しいっす。
それに、俺にそんなこと言ってもいいんですかー?」
「どういう意味だ?」
「この間のこと言いふらしますよー。
先輩が女性と抱き合ってたって。
いいのかなー?
俺らに仕事押しつけて、自分は女性とい
ちゃついちゃってー。
あの後二人きりで何してたんすか?」
へらへらと笑いながらキースはグレッグへと話しかける。
グレッグは立ち止まると、キースを射殺すように睨みつける
「お前……見たのか?」
「なんすか?先輩、ちょっと怖いんですけ
ど」
「彼女の顔を見たのか?
視界に入れるなと言ったはずだが?
しばくぞ」
「ちょ、ちょ、こわっ!静かに怒るのまじ
でやめてもらえませんか。こわいんすけ
ど…
パワハラされたと隊長に言いつけますよ」
「勝手にしろ」
グレッグは執務室へと向かい再び歩を進める。
「あ、ちょっ先輩待ってください」
「何だ、まだ何か用か」
「また、手紙が届いていたんすけど…
どうします?」
「貸せ」
グレッグはキースの手から手紙を奪い取ると、目の前でビリビリと破きはじめる
「あー!先輩、だめっすよ!
どうして破くんですかー」
「キース、片付けておけ」
「はぁー?ちょっとせんぱーい」
キースは、文句を言いながら床に散らばった手紙の残骸を必死にかき集めた。
「隊長に、言いつけますからね!」
✳︎✳︎✳︎
その日グレッグは、隊長室に呼び出されていた。
治安隊は平民と貴族と混在しているが、上の役職に就くのは貴族が主であった。
実力主義の騎士とはいえ、平民の下で働くことに抵抗がある者も少なくない。
無意味な軋轢をうまないための措置でもあった。
隊長はグレッグの扱い困惑していた。
何年か前に治安隊に移動してきた青年。
以前は王城の騎士だったと聞いている。
華々しい王城勤めの騎士から、治安隊に異動ということは、何かしら不祥事があっての左遷だと勘繰る。
だが、今も王城のかなり上の役職の者に太いパイプを持っているようだ。
先日のノーマン伯の件といい、治安隊の一騎士が申し立てただけにしては、王命が下るのが早すぎる。私でさえ王城の騎士へアポを取るのが難しいのに…そういえば事後報告だったなと、今さら思い至る。
家柄といい、仕事ぶりといい、本来なら役職が与えられるべきだ。
異動の際、本人の希望に沿うようにとあったので、名目上は平の騎士だ。
本人が目立ちたくないからという理由で平を希望している。
あの容姿なので目立たないのは難しいだろうが。
何を考えているかよく分からない青年なので、隊長は気が重かった
「グレッグ、元ノーマン邸にこの手紙を含めて、複数の手紙が届いていたはずだが……お前、きちんと宛名の人物に届けているのか?」
執務机の上に置かれている郵便物を指差しながら、隊長はグレッグに問いかける。
「……」
「どうして無言なんだ?
お前、まさか届けていないんじゃないだろうな?
もしそうなら別の者に届けさせるが━━」
グレッグは机の上に置かれている手紙を素早く取り去った
「あ、おいこら、お前は勝手に…
返せ。何してる?」
「お断りします。他の者がソフィアへ届けることも許可できません」
「は?なんでお前の許可がいるんだ?
宛名は確かにソフィア嬢となっているが、知り合いなのか?」
「……婚約者です」
「は?誰の?」
「私です」
「は?は?お前の……?
お、お前の婚約者?
聞いていないが」
「言っていませんから」
「お前、そういう大事なことは上司の私に一言伝えるべきだろう…
婚約者がいたのか。あぁ、まぁお前の実家は侯爵家だったな、婚約者ぐらいいて当然か」
「家は関係ありません。私が彼女に想いを受け入れてもらったのです。」
「なっ!堅物のお前が?お、お前が…」
「隊長、先程から何をそんなに驚いているのですか?
語彙力が崩壊していますよ。
私だって男ですから、大切に想う人くらいいますよ」
「お、お前本当にグレッグか?
近寄る女性達を虫ケラのように扱っていたではないか。おかげで女性の扱いが雑だと苦情が殺到していたが…
グレッグ、お前、まさか本当に手紙を捨てていないだろうな?」
「隊長に密告したのは、キースですか」
「おい、キースを責めるな。いいか、勝手に手紙を処分したことが世間にしれたら、この治安隊の信用に関わる。分かっているのか?」
「知られなければいいことです」
「お前なぁ…そういう問題ではないだろう。真面目なお前がどうした?手紙の送り主に心当たりでもあるのか?差出人の記載はないが……まさか開封して読んだりはしてないよな?」
「あぁ、思いつきませんでした。その手がありましたね。」
グレッグは先程奪い取った手紙を開封しようと手をかける。
隊長は椅子から立ち上がると、グレッグから手紙を奪い返そうと詰め寄る
けれどグレッグは颯爽と身を交わし手紙を死守する。
「おい、何してる!開けるな!貸せ」
「二度とソフィアに近づかないようにしなければ。」
「お前、何言ってる?」
「こういったシンプルな封筒は女性は好んで使いません。化粧品や香水などの匂いもしません。送り主は男性と思われます。
おおかたソフィアに一目惚れしたストーカー男に違いありません!」
「グレッグ、いったん頭を冷やせ。ストーカーかそうでないかも含めて、その手紙をソフィア嬢に届けてこい!今すぐだ!
直接彼女に確認してもらって、お前の言う通りストーカーからの手紙だったら、送り主も含めて好きに処分してこい!」
隊長は手紙を取り上げるのを諦めると、グレッグを扉から強引に押し出した。
「キース、何度も言っているが無駄に語尾を伸ばすのをやめろ。もう少しきちんとした話し方ができるだろう?
騎士として恥ずかしくない言動をだな…」
治安隊本舎内の廊下にて、グレッグは後輩のキースに呼び止められていた。
キースはいつも間の抜けた物言いをするが、その話し方とはうらはらに剣の腕はかなりのものだ。
有事の際には、自分の背後を任せてもいいと思うほどには信用している。多少、お調子者ではあるが。
「えー、ちょっと難しいっす。
それに、俺にそんなこと言ってもいいんですかー?」
「どういう意味だ?」
「この間のこと言いふらしますよー。
先輩が女性と抱き合ってたって。
いいのかなー?
俺らに仕事押しつけて、自分は女性とい
ちゃついちゃってー。
あの後二人きりで何してたんすか?」
へらへらと笑いながらキースはグレッグへと話しかける。
グレッグは立ち止まると、キースを射殺すように睨みつける
「お前……見たのか?」
「なんすか?先輩、ちょっと怖いんですけ
ど」
「彼女の顔を見たのか?
視界に入れるなと言ったはずだが?
しばくぞ」
「ちょ、ちょ、こわっ!静かに怒るのまじ
でやめてもらえませんか。こわいんすけ
ど…
パワハラされたと隊長に言いつけますよ」
「勝手にしろ」
グレッグは執務室へと向かい再び歩を進める。
「あ、ちょっ先輩待ってください」
「何だ、まだ何か用か」
「また、手紙が届いていたんすけど…
どうします?」
「貸せ」
グレッグはキースの手から手紙を奪い取ると、目の前でビリビリと破きはじめる
「あー!先輩、だめっすよ!
どうして破くんですかー」
「キース、片付けておけ」
「はぁー?ちょっとせんぱーい」
キースは、文句を言いながら床に散らばった手紙の残骸を必死にかき集めた。
「隊長に、言いつけますからね!」
✳︎✳︎✳︎
その日グレッグは、隊長室に呼び出されていた。
治安隊は平民と貴族と混在しているが、上の役職に就くのは貴族が主であった。
実力主義の騎士とはいえ、平民の下で働くことに抵抗がある者も少なくない。
無意味な軋轢をうまないための措置でもあった。
隊長はグレッグの扱い困惑していた。
何年か前に治安隊に移動してきた青年。
以前は王城の騎士だったと聞いている。
華々しい王城勤めの騎士から、治安隊に異動ということは、何かしら不祥事があっての左遷だと勘繰る。
だが、今も王城のかなり上の役職の者に太いパイプを持っているようだ。
先日のノーマン伯の件といい、治安隊の一騎士が申し立てただけにしては、王命が下るのが早すぎる。私でさえ王城の騎士へアポを取るのが難しいのに…そういえば事後報告だったなと、今さら思い至る。
家柄といい、仕事ぶりといい、本来なら役職が与えられるべきだ。
異動の際、本人の希望に沿うようにとあったので、名目上は平の騎士だ。
本人が目立ちたくないからという理由で平を希望している。
あの容姿なので目立たないのは難しいだろうが。
何を考えているかよく分からない青年なので、隊長は気が重かった
「グレッグ、元ノーマン邸にこの手紙を含めて、複数の手紙が届いていたはずだが……お前、きちんと宛名の人物に届けているのか?」
執務机の上に置かれている郵便物を指差しながら、隊長はグレッグに問いかける。
「……」
「どうして無言なんだ?
お前、まさか届けていないんじゃないだろうな?
もしそうなら別の者に届けさせるが━━」
グレッグは机の上に置かれている手紙を素早く取り去った
「あ、おいこら、お前は勝手に…
返せ。何してる?」
「お断りします。他の者がソフィアへ届けることも許可できません」
「は?なんでお前の許可がいるんだ?
宛名は確かにソフィア嬢となっているが、知り合いなのか?」
「……婚約者です」
「は?誰の?」
「私です」
「は?は?お前の……?
お、お前の婚約者?
聞いていないが」
「言っていませんから」
「お前、そういう大事なことは上司の私に一言伝えるべきだろう…
婚約者がいたのか。あぁ、まぁお前の実家は侯爵家だったな、婚約者ぐらいいて当然か」
「家は関係ありません。私が彼女に想いを受け入れてもらったのです。」
「なっ!堅物のお前が?お、お前が…」
「隊長、先程から何をそんなに驚いているのですか?
語彙力が崩壊していますよ。
私だって男ですから、大切に想う人くらいいますよ」
「お、お前本当にグレッグか?
近寄る女性達を虫ケラのように扱っていたではないか。おかげで女性の扱いが雑だと苦情が殺到していたが…
グレッグ、お前、まさか本当に手紙を捨てていないだろうな?」
「隊長に密告したのは、キースですか」
「おい、キースを責めるな。いいか、勝手に手紙を処分したことが世間にしれたら、この治安隊の信用に関わる。分かっているのか?」
「知られなければいいことです」
「お前なぁ…そういう問題ではないだろう。真面目なお前がどうした?手紙の送り主に心当たりでもあるのか?差出人の記載はないが……まさか開封して読んだりはしてないよな?」
「あぁ、思いつきませんでした。その手がありましたね。」
グレッグは先程奪い取った手紙を開封しようと手をかける。
隊長は椅子から立ち上がると、グレッグから手紙を奪い返そうと詰め寄る
けれどグレッグは颯爽と身を交わし手紙を死守する。
「おい、何してる!開けるな!貸せ」
「二度とソフィアに近づかないようにしなければ。」
「お前、何言ってる?」
「こういったシンプルな封筒は女性は好んで使いません。化粧品や香水などの匂いもしません。送り主は男性と思われます。
おおかたソフィアに一目惚れしたストーカー男に違いありません!」
「グレッグ、いったん頭を冷やせ。ストーカーかそうでないかも含めて、その手紙をソフィア嬢に届けてこい!今すぐだ!
直接彼女に確認してもらって、お前の言う通りストーカーからの手紙だったら、送り主も含めて好きに処分してこい!」
隊長は手紙を取り上げるのを諦めると、グレッグを扉から強引に押し出した。