傷だらけの令嬢〜逃げ出したら優しい人に助けられ、騎士様に守られています〜
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お昼の多忙な時間帯を過ぎて、三日月亭に静けさが戻っていた。

普段なら午後のティータイムや、宿屋にチェックインするお客様で賑わうのだけれど、本日はもう閉める予定だった。なのでソフィアは部屋で寛いでいた。


明日からしばらくの間、三日月亭は休業予定だ。というのもダンさんとルイーザさんが旅行に行くからだ。 

宿屋を営んでいるので滅多に休めないのだけど、それでも以前は定期的に旅行にでかけていたようだった。

おそらく娘さんが亡くなってからは、初めての旅行だと思う。

一緒に行かないかと誘われたのだけれど、夫婦水入らずで楽しんで欲しいので、今回は遠慮させてもらった。


グレッグ様がいるので、二人も自分たちが留守にしても大丈夫だろうと安心している。


私もこの際どこかに出かけてみようかなとも思う。

グレッグ様と一緒に過ごしたい…

なんて恥ずかしくてとても言えない

きゃぁと一人頬を赤らめて、百面相のように悶えている所に、「ソフィア、大丈夫か」と部屋の窓からグレッグ様が声をかける。


「グ、グレッグ様、どうされたのですかって、誰かに見られたら通報されますよ。危ないので中へどうぞ」


グレッグは窓からソフィアの部屋へと足をおろす。

「何度か声をかけたのだが。顔が赤いが熱でもあるのか」

グレッグはソフィアの額に自身の額を軽く押し当てた。

急にグレッグ様の顔が近づいてくるので、
ドキドキドキと心臓の音がうるさい

「うん、熱はないようだ」

ソフィアはふっと軽く微笑むグレッグ様から目が逸らせないでいた。
あまりにも近くで声をかけられて、耳元もくすぐったい

真っ直ぐな好意を向けられることに、今だに慣れない。

グレッグは戸惑うソフィアの腰に手を回して、自身へと勢いよく抱き寄せる。

「ソフィア」

「グレッグ様…んっ!」


グレッグは自身の想いを、言葉の代わりに行動で示すようにソフィアと唇を重ねる。

軽い口づけから始まり、舌を絡めるようにお互いの想いを確かめ合う。

「ソフィア……あぁ、かわいい…」

グレッグは口づけの後にソフィアを抱きしめ、ちゅっと軽く額へと口づける。


ソフィアの金色の髪を撫でてグレッグはソフィアを解放する。

いまだ熱を帯びた状態のソフィアを支えながら椅子へと腰掛ける。

ソフィアはぼーっとのぼせたような状態で、くらくらとしていた。

でもとても心地のよい感覚でもあり、いけないことをしているようでもあった。

グレッグ様によって、未知の世界を切り開いてもらっているようで、ふわふわとしたこの感覚がとても嬉しかった。

世間の恋人達はもっと先のこともしているとグレッグ様はおっしゃっていたけれど、ソフィアには想像もつかず、自分の心臓が持つのか不安だった。

「ソフィア、これを受け取ってほしい。」

グレッグは小さな小箱をソフィアへと差し出した。

「私にですか?開けてもいいですか?」

「あぁ」

ソフィアは受け取った小箱を開ける。中には指輪が嵌め込まれていた。中央に一粒のサファイアがあり、リングの部分には小さなダイヤが均等に嵌め込まれていた。

サファイアの色は、グレッグの瞳と同じブルーグレイだった。

「きれい……グレッグ様にみつめられているみたいです。でも、こんな高価なもの…私に…?」


ソフィアは指輪とグレッグを交互に見て狼狽えていた。


グレッグはソフィアの手をそっと取ると、指輪を薬指へとはめる。

「あぁ、よく似合っている。」


ソフィアの手の甲に口づけを落としグレッグはソフィアを見つめる。

ソフィアは優しいブルーグレイの眼差しが大好きだと改めて思う。

自身の指にぴったりとはまっている指輪を見ると、まるでグレッグ様にみつめられているようだった。

「で、でも、やはり私にはもったいなくて…」


「ソフィア、これはお守りとして受け取ってほしい。きちんとした婚約指輪は改めて送らせてほしい」


「えぇっ!こ、これと別にですか?」

「あぁ、これはお守りだ(虫除けだ)」


「お守りなのですか…」

「あぁ、実は特注品である効果を付与してもらっている。肌身離さずつけていてほしい。お願いだ。
というのも、ある任務のため、しばらくここを離れなくてはならない。

ソフィア、私が戻るまで、なるべく出歩かないでほしい。なるべくここにいてほしい。心配なんだ」


「ふふ、グレッグ様は心配症ですね。大丈夫です。ダンさんもルイーザさんもいますし、それにもう…グレッグ様たちのおかげで逃げる必要もなくなりましたし。」

グレッグは一瞬言葉に詰まる。
ソフィアへ気づかれないように笑顔で答える。

「あぁ、では行ってくる。なるべく早く戻る。どうしても何かこまったことがあれば、あまり気が乗らないがキースに相談するように。」

「はい。分かりました。グレッグ様もお気をつけて」

グレッグはもう一度ソフィアを強く抱きしめると、窓から去って行った。


ソフィアは明日からダンさん達が旅行に行くことを黙っておくことにした。

無駄に心配をかけたくないし、問題はないと思っていた。

グレッグは、この時ダンとルイーザに挨拶をして行かなかったことを後ほど後悔する

家を訪ねるときは窓から侵入するのではなく、きちんと玄関から入るという常識は、ソフィア脳のグレッグにはなかった。









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