傷だらけの令嬢〜逃げ出したら優しい人に助けられ、騎士様に守られています〜
ダンさん達を見送ってから、ソフィアは一人で朝食を摂っていた。

食べ終えて洗濯をした後に、少し散歩に出かけようと考える。

さっそくバタバタと洗濯まで終えて干し終わると、動きやすいワンピースへと着替えた。


白地に水色の小花模様が入ったワンピースで、先日自分で購入したものだ。

グレッグ様を思わせる色味に衝動買いしてしまったのだ。

もう完全に自分は恋愛脳になりつつある…恥ずかしい

左手の薬指には指輪もはめている。

グレッグ様とは次はいつ会えるのだろう。

昨日会ったばかりなのに、既に会いたくなっていた。

街中へ向かうと、三日月亭の食堂を利用してくださるノーラさんとばったり遭遇した。

「おや、ソフィアちゃん。ルイーザ達はもう出かけたのかい?」


「はい、二人で楽しそうに出かけて行きました」

「はっはっ。あの二人は仲がいいからね~。ソフィアちゃんも、これから見学へ行くのかい?」

ノーラはソフィアへ1枚のチラシを見せた。


「見学ですか?」

「あー、ほら、あそこのノーマン邸が今一般開放しているのさ。競売に出されるまでの期間限定らしいけどね。
お貴族様のお邸を見られる機会なんて、早々ないからね。

私も今行ってきた所だよ。

ソフィアちゃんも行くなら、そこから乗り合い馬車で近くまで行けるからね。気をつけて行っておいでね。じゃあ、またね」


「は、はい」

ノーラはソフィアが見学に行くと思ったようで、そそくさと立ち去って行った。

「見学……」


グレッグ様から近づかないようにと言われているけれど、少しだけなら大丈夫だよね

あの手紙のことも気になる。

私宛に最近も届けられているのなら、もしかしたらまた届けられるかもしれない


ソフィアは乗り合い馬車へ乗り込むと、元ノーマン邸へと向かった。

門には騎士が2名いたけれど、特に確認なく自由に出入りできるようだった。

賑やかな声もしていて、まるで観光地に来たようだった。


昔のことがフラッシュバックするのが怖かったけれど、楽しそうな人達の姿を見て何とか平常心を保てていた。


門を通り抜けて邸へ入って行く。


ある程度の家具を除いて、ほとんどのものはなくなっていた。おそらくどこかへ撤去されて売りに出されたのだろう。


不思議なもので、ここに住んでいた時よりも見学の今の方が自由に見て回れる。

外からの日差しが差し込み明るく室内を照らしていた。

本当はこんなに明るいのね

常にうつむいてビクビクしながら、この辺りも掃除していたなと、物思いにふけりながら歩いていた時だった


「━ソフィア?」


男性にしてはやや高いテノールの声色で、呼びかけられた。

いったい誰だろうと思い振り向くと、

「あぁ、ソフィア!やっと会えた」

突然ガバリと男性に抱きしめられた。

思わず叫びそうになり、男性の胸を押し退ける

目の前にいる男性を見上げると、精悍な顔立ちをした黒髪の大人の男性が佇んでいた。思わず目が惹きつけられる。だってあの頃の面影が残っているから…

ずっとずっと気がかりだった人。

命の恩人と言っても過言ではないくらいお世話になった人

私のせいで酷い仕打ちを受けてしまった人

元気でいてくれたらと心の底から願っていた人

「……ジャック?本当にあなたなの?ジャック!」

生き別れた家族に再会したように嬉しくて、お互いの手を握りあって確認し合う


「ソフィア……遅くなってごめん…もう、心配いらないから。一緒に行こうソフィア」

そう言うとジャックはソフィアを強く抱きしめた。

「ジャック…、あ、あの待って」

ソフィアはジャックと距離を取ろうと後退さる

「ごめん、嬉しくてつい…」

「ううん、ちょっとビックリして」

「色々話したいことがあるんだ。少しいい?ソフィア」

「私も。ジャックには色々と話したくて…」


半泣き状態になったソフィアの背中を軽く支えるように、ジャックとソフィアは中庭へと歩いて行った。


その二人の姿を偶然見た騎士は硬直した。

「まじっすか……先輩…やばいっす…」

騎士は脱兎の如く本舎へと向かい駆け出した。
















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