傷だらけの令嬢〜逃げ出したら優しい人に助けられ、騎士様に守られています〜
「婚約おめでとう…ソフィア、こんな時に聞くのも変だけど、あのさ…」


「しっ! 誰か来る」



キースの声により二人は口を噤んだ

言われた通りにおとなしく項垂れる

ソフィアは必死に聞き耳をたてていた

しばらくすると、かすかに複数の足音が耳に届く


足音がはっきりと聞こえるような距離まで近づいてきたので、すぐに動けるように座り直す

「おい、3人とも出ろ」

見上げると、二人の男が扉の前に立っていた

一人の男がガチャガチャと牢の鍵を回した後、格子戸を開いた

ソフィアとジャックは、立ち上がってじっとしていた

キースは先頭に立ち一人で牢の扉から出ると、素早く目の前の男に頭突きをくらわした。男がひるんだ隙に腹部に拳を打ち込む


「ウガッ」

そして背後のもう一人の男に、肘鉄をお見舞いした後、振り向きざま首元に手刀を落とす

「グァッ」

バタバタと呆気なく男達は気を失って倒れた

「二人共お待たせしたっす」


「す、すごいですキースさん」

「ソフィア、歩けるか?急ごう」

ソフィアとジャックが牢の外に出ると、キースは倒れた男達を、牢の中へと転がし入れて鍵を閉める

「とりあえずこっちに進もう、二人とも俺の後ろに」


出口へと向かって薄暗い廊下を小走りで進んだ


「まずいっ、こっち」


先頭を走るキースがいきなり立ち止まり、ソフィアとジャックを隠すように脇道へと押しやる

息を潜めて様子を窺うと、足音と話し声が聞こえてきた


何を言っているのかは聞き取れず、遠ざかって行く

「大丈夫そうっすね」


「キースさん、ソフィアのことをお願いします。ちょっと気になることがあるので、僕のことはお構いなく。ソフィア、ごめん、先に逃げて、お願い」


「ジャック!」

「一人でどこ行くんですか!」


再び進もうとした時に、ジャックが思い詰めた表情で、一人で駆け出して行ってしまった




「ソフィアちゃん、俺たちだけでも先に脱出しよう」

「キースさん、ごめんなさい」

「あっ、ソフィアちゃん、ちょっと待って」

 ジャックの後を追いかけて行こうとするソフィアを、キースは慌てて腕をつかんで引き留める

「あっと、突然触れたりしてごめん、でも一人だと危ないから」


「ジャックが、ジャックが…キースさん、お願いします。胸騒ぎがするんです、このまま、また会えなくなるような気がして…」

「…分かったから、ソフィアちゃん。俺が連れ戻してくる。ソフィアちゃんは見つからないように隠れていて、絶対に一人で動いたりしないで、いい?」

「キースさん…」

ソフィアを一人残すことに、キースは後ろ髪が引かれる思いだった

ジャックさんが何をしに行ったのか分からない

ソフィアちゃんを一緒に連れて行くのは危険だ

これ以上危険な目に合わせる訳にはいかない

男達の目が覚めるのも時間の問題だ

騒ぎ出す前にソフィアちゃんを連れ出したい

あまり時間がない

ジャックさんの状況次第では、ソフィアちゃんだけでも強引に連れ出さなければ

キースはジャックの消えて行った方向に向かって駆け出した






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