傷だらけの令嬢〜逃げ出したら優しい人に助けられ、騎士様に守られています〜
薄暗い廊下の中、ソフィアは壁際に背を預けてずるずると崩れるようにへたり込んだ

膝を抱えてしばらくジャック達が消えた方向を眺めていた


目を凝らしてじっと見つめていても、二人が戻ってくる気配はない。

暗闇の向こうにも、同じような牢が続いているのだろう

こんな牢屋があるなんて知らなかった

あの頃、この牢屋に閉じ込められなくて本当に良かった

ここに閉じこめられていたら、きっと私は耐えられなかった

薄暗い中にいることは別に怖くなかった

私がいた部屋も暗かったので、少し懐かしくも感じる

ただあの頃と違って、誰かと一緒に過ごすことが多かったので、一人でいることが無性に寂しい

自分だけ取り残されてしまったように感じる

一緒に行っても、足手纏いになるだけなのは分かっている

私にも何か役に立てることがあればいいのに

何も出来ない、こんな自分が嫌になる

気分が深く沈んでいく時には、決まってアンジェリカの声が脳裏に響く


"本当に何も出来ないんだから!"

"あんたなんて生きてる価値もないのよ"


やめて、やめて、これは幻聴

ぶんぶんと首を左右に動かして、頭からアンジェリカを追い出そうとする

もうアンジェリカはいないのだから

今頃は修道院にいる

もしかしたら改心して反省しているかもしれない

アンジェリカは私を義妹だと思っていたから、きっとあんなことをしたんだわ

母親を失ってから心の傷の癒えていない時に、突然義妹が現れたら誰だって心が揺さぶられる

その義妹が平民の娘で、あまり年の離れていないこともショックだっただろう

だからと言って、あんな仕打ちはあんまりだわ……



「み~つけた、うふふふ、こ~んな所で何してるの?ソ・フィ・ア」

薄暗闇の中に突然女性の声が響く

「っ!あ…あ…」

アンジェリカ……

今度は幻影を見ているの?

パチパチと瞼を何度も上下させてみるものの、目の前の彼女は姿を消さない

仁王立ちして自分を見下ろしていた

「ど……し……て……」

ここにいるはずのないアンジェリカの姿を目の当たりにしても、現実が受け入れられないでいた

身体全体が冷水を浴びたようにすくむ

口をぱくぱくと動かすものの、思うように言葉が出てこなかった

「な~に、その呆けた顔は? アハハ!
 こんな所で一人で這いつくばっているなんて、ここが気に入ったのね? 

あなたにお似合いの場所じゃないの
一緒にいた男はどうしたの?
あぁ、もう捨てられたのかしら。
ウフフフ、な~んてね、あの男には用があるらしいから……」

「ど、どこ…? ジャックをどこへやったの‼︎」


ソフィアは気持ちを奮い起こして、震える足に力を入れて立ち上がった

ジャックの居場所を知っていることを匂わす言葉を聞いて、その瞬間、アンジェリカがどうしてここにいるのかなんてどうでもよくなった

「触らないで‼︎」


アンジェリカは詰め寄ってきたソフィアの手を勢いよく払いのける

「なんなの‼︎ 気安く近づかないで! ソフィアのくせに! あの男はジャックというの、ふ~ん、そう」

「ジャックのこと、覚えていないの? あなたもよく知っているはずよ、以前ここに勤めていたのよ。ねぇ、アンジェリカ
、私、あなたに話さなければいけないことが……」


「あーうっるさいわね‼︎
私の名前を呼ぶなんて、あんた何か勘違いしているんじゃない? 
使用人の顔なんて、いちいち覚えてる訳ないでしょ‼︎ どうでもいいわそんなの!
いい加減にして‼︎
このっ!」


アンジェリカはソフィアを叩こうと右手を大きく振り上げる


ぶたれると思ったソフィアは身構える


が、アンジェリカはソフィアの首元を睨みつけて、振り上げた手をゆっくりとおろした

「ね~え、ちょっと話があるの、一緒に来なさい! どのみち逃げた所で、すぐに見つかるわよ。 痛い目にあいたくなければ、私と一緒に大人しく来た方が身のためだと思うけど?
それに、あの男の居場所を教えてあげるわよ、どうする? 」

口角を上げたアンジェリカを見たソフィアは嫌な予感がした

何かを企んでいる時の顔だわ

それも、私に何か酷いことをする時の顔…

でも、ジャックが捕まってしまったのかもしれない

「分かったわ、一緒に…行きます」

「さっさと来なさいね‼︎ グズなソフィア」

アンジェリカはソフィアを伴い歩き出した



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