傷だらけの令嬢〜逃げ出したら優しい人に助けられ、騎士様に守られています〜
指輪を無事に掴みとることに成功したソフィアは安堵のため息をもらす


床にへたり込んだままの状態で、落としそうになりながらも、震える手でなんとか指にはめる


指輪をはめた手を包み込むようにして、胸の前に持ってくると、

まるで祈りを捧げるように、心の中でつぶやいた


(グレッグ様、どうか見守っていてください)



ソフィアは自分を叱咤して、アンジェリカと対峙するべく向き合う


「アンジェリカ、もうこんなことやめて! 私達、赤の他人なのよ、だからもう私に構わないで」


「さっきからうるさいわね! 何を言ってるの⁉︎」

「だからね、私とあなたは姉妹ではないの。 私の父親は━━」


ソフィアはうっかり父の名前を言いそうになったところを、すんでのところで思い留まり言葉を呑み込む

まだ公にしてはいけないんだったわ

「父親の名前は? 誰なの? さっさといいなさいよ! さっきまでの勢いはどうしたのよソフィア

アハハハハ! 言えないような人物なのね? あ~可笑しい! 

そうなの……はぁ⁉︎ だったらお母様は何を恨んでいたっていうのよ‼︎

もう、訳分かんない‼︎ はっ!私を混乱させようとしてるのね

ソフィアのくせに、随分と姑息な真似をするじゃない!

つくづくあんたって本当に鬱陶しいわ‼︎」

アンジェリカは転がる桶を拾い上げると、力の限りソフィアに向かって投げ飛ばした

ぶつかる‼︎

座り込んだ状態のままソフィアは、両腕を交差するようにして顔を庇った


ところが、ソフィアめがけて飛んできた桶が、ソフィアに届く前に突然爆発したかのように、粉々になり霧散した


「⁉︎」

何が起こったのか状況が掴めていない所に、追い討ちをかけるようにまばゆい閃光がソフィアの前を覆い尽くす


思わず目を閉じる

光が収まるのを見計らい、恐る恐る目を開けると━━


「……グレッグ様?」


目の前には、突然どこからか現れたグレッグ様が佇んでいた

まるで夢見ていた物語の王子様が、助けにきてくれたようだった

この国に魔法など存在しないのに、どう考えても魔法を使ったとしか思えないような現れ方だった


「ソフィア‼︎」

グレッグはソフィアの酷い有り様を見て━━ずぶ濡れの状態で泣き腫らした顔、乱れた髪の毛の中に、不自然にちぎれた部分を見てとると、眉間に深い皺を刻む


「━━誰がこんな酷いことを!」

グレッグはすぐにでもソフィアを抱きしめたい衝動を抑えて、周囲の状況を見渡し把握する

視線だけで殺せるのではないかというほどに、アンジェリカを見据える


「━━やはり、お前か……アンジェリカ嬢‼︎ 覚悟はできているんだろうな‼︎」


グレッグは剣を抜き取り、アンジェリカに素早く詰め寄る

怒りの情を宿したグレッグの瞳に睨まれて、アンジェリカは踵を返して逃げ出した

グレッグは瞬く間に距離を詰めると、アンジェリカの髪の毛をバサリと剣で切り落とした

「ぎゃあーーーー!」

切られたのが髪の毛だけなのに気づいても、アンジェリカは叫び続ける

「私の髪が、あぁ、髪が……」

「お前がソフィアにしたことに比べれば、どうってことない! こんなことで許されることではない!」

グレッグは涙ぐむアンジェリカに容赦無く言葉を浴びせる

そして再び剣を振り上げる
ソフィアは咄嗟に駆け寄ろうとした

「あっ!」


立ち上がろうとしたものの、バランスを崩して倒れ込んだ

「ソフィア‼︎」

ドサリと物音のした背後を振り向くと、ソフィアの倒れた姿が飛び込んでくる

グレッグは剣を鞘に納め、ソフィアの元へ駆け寄った


「グレッグ様!」

「ソフィア!……足を捻ったのだな、痛むだろう、あぁ、どうしてこんなことに…すまない……」

倒れた身体を優しく抱え起こしてくれて、
ギュウッと力強く抱きしめられる。

「グ、グレッグさ……ま……あの、
だめです、汚れてしまいます」


濡れた状態のソフィアは、グレッグを引き離そうと軽く胸を押した

グレッグはソフィアのその言葉を聞いて、軽いため息をもらす

「ご、ごめんなさいグレッグ様……こんな姿で……呆れてしまいましたか?」


グレッグ様の温もりが離れて、急激に心も冷えそうになった

「⁉︎」

ふわりとグレッグ様のマントで、包むように覆われると、そのまままた強く抱きすくめられる

「ソフィア、これなら濡れるのはマントだけだ。気にならないだろう?

ため息をついたのは呆れたからではない。
別に私は濡れても構わないが、そう言ったところで、ソフィアは気にするだろう?

 もう少し私に甘えてくれ、もっと頼ってくれ。 遅くなって本当にすまない。
ソフィア……君の姿を見た時に、胸が張り裂けそうだった……

心臓が止まりそうになった……
こうしている今でも、心配で死にそうだ。

つらかっただろう、怖かっただろう……

もう二度とソフィアと離れたりしないから」

グレッグ様のマントに包まれて、グレッグ様にピッタリと身を預けて、全身がグレッグ様の優しさに温めれていく

ほっと安堵した途端、はらりと涙がこぼれる

「グレッグ様……グレッグ様……怖かった…もう……だめかと……」

水で苦しめられた時に涙は出尽くしたと思っていたのに、後から後から涙が溢れ出す

グレッグはソフィアを落ち着かせるように、「もう大丈夫だ」と強く抱きしめていた


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