傷だらけの令嬢〜逃げ出したら優しい人に助けられ、騎士様に守られています〜
どのくらい抱き合っていたのだろう

気持ちが落ち着いてきたソフィアは、顔を上げグレッグから離れて座りなおす

グレッグは、まだ自身に残るソフィアの温もりを感じながら、名残り惜しく思う

「ソフィア、すまなかった……」

「どうしてグレッグ様が謝るのですか?
グレッグ様は助けてくださったのに。
本当に……ありがとう……ございます」


「いや……きちんと説明しなかった私の落ち度もある。 ソフィア、指輪を外していたのではないか?」

ソフィアの左手の薬指に光る指輪に、ちらりと目線を落としてから、グレッグはソフィアの瞳をみつめる

「えっと、寝る時に外していて……咄嗟にポケットに入れていたのですけど、落としてしまいまして……

グレッグ様はどうして、指輪を外していたことが分かったのですか?」


「やはりそうか。その指輪をつけていたならば、ソフィアがこのような酷い扱いを受けることはなかったはずだ。

それは普通の宝石ではない。

ソフィアが攻撃を受けることがないように特別な効果を付与した石━━つまり魔石なのだ。

対になる石と呼応しているから、先程のように危機的状況の時には、対の指輪の持ち主が転移することができるようになっている」

ソフィアは内容が理解できずに、言葉に詰まる

「……グ、グレッグ様でも冗談をおっしゃるのですね、ふふ、それではまるで魔法みたではないですか、魔法だなんてありえませんよね?」

「……(ソフィア、この国では一般には知られていないが、王族は魔石を使用したたアクセサリーをお守りとして身につけてある。

魔石は遠い異国にしか存在せず、流出を制限されている。

莫大な金額と、コネをフル活用させて手に入れたものだ。だが、指輪だけでなくネックレスやブレスレットやその他諸々入手しなければ…… )」
  

グレッグの長い沈黙を肯定と思ったソフィアは、今頃になりようやくアンジェリカがいないことに気づく


ソフィアの様子を訝しんだグレッグは、室内を見回してアンジェリカが逃げたことを悟る

「彼女の足ではそんなに遠くまで逃げられまい、手配されている」

「グレッグ様は、先程の現れ方といい、手配のことといい、お仕事が早いですね。
きっと、毎日厳しい訓練されているのでしょうね

あんなに突然現れるなんて、今だに信じられません。

あ、あの、グレッグ様大変なのです!

どうかグレッグ様、ジャックを、ジャックを助けに行っていただけませんか?

もしかしたらジャックも、私みたいに酷い目にあっているかもしれません!

大切な人なんです、どうか、お願いします」




ソフィアは夜中に三日月亭から連れて来られたことなどを説明した

「ソフィアの大切な人……」

グレッグはソフィアの口から"大切な人"と

いう言葉に、思わず嫉妬する

が、すぐにジャックという名前に、聞き覚えがあることを思い出す

記憶を手繰り寄せ、ソフィアから以前捜索依頼を受けたことに思い至る


実は最近、やっとジャックの居場所を特定することができた

直接会っていないが、報告は受けていた

何かの研究で将来有望視されている

性格も穏やかな好青年

しかも独身

ソフィアの恩人は私の恩人でもあるが、

ソフィアに近づけてはいけないと判断した

元気でいることは、そのうち……そう、そのうちに伝えようと思っていたのだが……

「キースが一緒なんだろう?なら問題ない」

「キースさんも捕まってしまったかもしれませんし、心配なんです」

グレッグは、ソフィアとジャックを近づけるのは気が重かった

だが、キースには教育的指導の必要性を感じる

「分かった」

「ありがとうございますグレッグ様!

あ、あの、私は動けないので、ここにいますので…」

「ソフィアを置いていくなどという考えは、私の中に存在しない!

私の首に手を回すといい」

「グレッグ様…」

グレッグはソフィアを抱き抱えると、ジャックの捜索に向かうことにした

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