傷だらけの令嬢〜逃げ出したら優しい人に助けられ、騎士様に守られています〜
「ジャック殿! 目を閉じろ!」


ジャックは不意に誰かに叫ばれて、無意識に反応して目を閉じた


襟元の手が離れるのと「グァッ‼︎」と声がしたのが同時だった。

何かが空気を切る音と共に風圧を感じた

その直後にバタンと人が倒れた音が聞こえた



「お前ごときがソフィアの名を口にするなど死に値する‼︎」

ジャックが目を開けると、足元にはみるも無惨な有り様となったデクスターが放置されていた


「グ、グレッグ様………もしかして…その方は……亡…」

「ソフィア、見てはいけない。

君も死に値すると思ったのだろう?

だが、すまない、私とてそうしたいが…

半殺しに留めておいた。

殺さなかった私を褒めてくれるか」


扉の外に隠れるように佇むソフィアの元に、銀髪の騎士が急いで駆け寄る姿が目に入る

ソフィアを抱き抱えると、再び今度はゆっくりと室内へと戻ってきた

正面から騎士の姿を見てジャックは息を呑んだ

その騎士の容姿が人を魅了する美しさをしているのもあったが、

ソフィアを見つめる眼差しに、深い愛情がこもっているのが見てとれたからだ

抱き抱えられたソフィアも、恥ずかしがりながらもどこか嬉しそうだ

二人がお互いを慈しんでいるのが感じられる。

ソフィアの幸せそうな表情をみれて嬉しい気持ちと、

モヤモヤとする黒い感情も心に渦巻いて

複雑な気持ちだった。


「ジャック‼︎ いたっ」


グレッグに地面に降ろされたソフィアは、足に激痛が走りグレッグに寄りかかる

「ソフィア‼︎ どうしたの? というか、いったいどうしたんだ⁉︎ どうして…こんな…ごめん…ソフィア、僕のせいだ…」

「はじめまして、ジャック殿。 貴殿にはソフィアが大変お世話になったと聞いています。
私は━━」

「グレッグさんですよね? ソフィアから聞いています。あ、いや、グレッグ様とお呼びすべきでしょうか。助けていただきありがとうございました」

「いえ、敬称などは不要です。ソフィアの恩人は私の恩人でもありますから。

ところで、この男は誰なんだ?」

「えっ⁉︎ お顔をご覧になったのではないですか?」

「いや、見る必要性を感じなかった」

グレッグはソフィアを片腕で抱き抱えたまま、鞘に収まった状態の剣先で男の頭部
を動かし顔を確認した


「…デクスター前宰相? 彼がなぜソフィアを?  ジャック殿説明してもらえるか?」

「そうですね━━いったいどこからお話すればいいのやら……」


「ちょっと待ってもらえるか、その話、詳しく私にも聞かせてくれ。

グレッグ、お前もいたのか。 それと…

君は……」



扉から現れた人物にソフィアとジャックは怪訝んな顔をする

庶民の服装をしているが、遠目にも分かるほどに高貴なオーラを醸し出している

「アレクセイ殿下、あなたこそなぜここに? しかもなんですか、見るからにどこぞの貴族が変装しているような、ザ・お忍びコーデは…」

「そうか? なかなか上手く着こなしたつもりだが。

話の前に、仕方ない、とりあえずデクスターを連行しろ」

アレクセイの声に呼応するように、数人の黒いマントを身に纏った男達が入室してくる

「触るな‼︎ 私を誰だと思ってる!

お前は…アレクか‼︎

この私を連行する権限はお前にはないはずだ!
 手続きをふんで、きちんとした書状を持ってこい。
まぁできるわけがないがなぁ。

仮にも公爵家の人間に、いくら王族のはしくれのお前でも簡単に手はだせまいよ。

ククク」

意識を取り戻したデクスターは、アレクセイに向かい声を張り上げる。


「はぁ、だそうだぞ、グレッグ。

お前はいつも先走るよな…

いいから黙らせて連れていけ!」


デクスターは呆気なく拘束されて連行されていった

「殿下、よろしいのですか?」

「あぁ、何かしら言われるまで牢屋に放り込んで様子見するさ」

「……つまり問題を先送りするということですね?」

「野放しにしてもお前に殺されるだろ。
かわいい部下を殺人者にさせないための賢明な判断ではないか。

あぁ、それに私も一応被害者だからな?

さてと、では改めて自己紹介しようか。

私はアレクセイ・ロナティア    
この国の第四王子だ。
そんなに畏らなくていい
私にも説明してもらえるか?」


「アレクセイ様……⁉︎」

ソフィアとジャックは、降って湧いたように現れた第四王子の登場に、思考が停止した

二人にとっては雲の上の存在であり、
本来なら自分たちが直接お会いすることができないはずの方だ


まるで時が止まってしまったのではないかと思うくらいに、二人はしばらくの間硬直していた
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