傷だらけの令嬢〜逃げ出したら優しい人に助けられ、騎士様に守られています〜
「おそれながら申し上げます…

説明させていただく前に、ソフィアの手当てをさせてはいただけませんでしょうか?

直接ご覧になられた方がお分かりいただけるかと思います」


「ソフィア嬢、随分と酷い仕打ちを受けたのだな……
すぐに手当てを」

「ソフィア、足首を少し診せてもらうよ」

ジャックはソフィアの足元に屈みこみ手当てをしようとする

グレッグは咄嗟にソフィアを横抱きに抱えあげた


「グレッグ、何してる」

「私以外の者がソフィアに触れることなど到底許すことが出来ません!」


「グレッグ様…あの…ジャックは治療をしてくれるようなので……」

ソフィアは皆にみられている状況で、グレッグによりお姫様抱っこされているのが気恥ずかしく、自然と顔を隠すようにグレッグの首元に顔をうずめる


「ジャック殿は医師なのか?」

グレッグの射抜くような視線をまっすぐに受け止めて、ジャックは答える

「いいえ、ですがソフィアのけがを治せます。ほんの少しだけ、僕が治療のためにソフィアの足元に触れることを許していただけますか? 
あなたもソフィアの痛がる姿をこれ以上見たくはないでしょう」

「グレッグ様、ジャックに診てもらってもいいでしょうか?」

ソフィアに耳元で囁きかけられて、グレッグは頬がニヤけそうになるのを必死に堪える

浮ついた気分は一瞬のことで、

ソフィアの潤んだ瞳にみつめられて、その腫れた瞼を見て、深い罪悪感に苛まれる

ソフィアを守りきれなかった自分の落ち度だ


この際くだらない嫉妬心は一旦捨てさろう


「グレッグ、お前いい加減にしろよ」


「……ソフィアがそう言うのなら…
ジャック殿、お願いする」


ジャックは胸の内ポケットから小瓶を取り出す。

小瓶の中には綺麗な砂のようなものがはいっていた


ジャックはその砂を手のひらに乗せると、
捻挫したソフィアの足元にそっと触れる

ソフィアは足首がじんわりと温められた感覚がした


ぽわんと足首の辺りが一瞬光をはなつ


「もう動かせると思うよ」


ソフィアは痛みが襲ってくるのではないかとドキドキしながら、ゆっくりと足を動かしてみた

「痛くない、治っているわ。すごい、ありがとうジャック!いったい何をしたの?」


ジャックはこれまでの経緯を簡潔に説明し始めた

「最初は異国から魔石のくず石を偶然入手したことが、きっかけになります

くず石を手に取ると、紙で指を切った箇所が治っていたんです。


くず石に可能性を見出し、研究を始めました

他の者では効果は発揮できませんでした。

異国に赴いたり、文献も調査したりして、

僕の見解も含めますが、

使用者の痛みを吸収することが分かりました

痛みというのは文字通り痛みです。

自分は過去にここ、ノーマン邸で酷い仕打ちを受けています

あれくらい酷い痛みを受けていないと発揮できないようです。

ですから、このことは公表するつもりはありません。

きっとこの力を使うためには…」


「奴隷を使うのが早いだろうな。なるほど、痛みを吸収するのか」

「なぜ痛みを原動力とするのかは不明です。
そもそも魔石のくず石は捨てられているので……

デクスター様のおっしゃっていたように治癒以外の効力があるかもしれませんが……

もともと、ソフィアのことを想って始めた研究なので、治癒以外は興味がありませんでした。」


グレッグは、ジャックのソフィアへの気持ちに淡い恋心があることに勘づいた

自然と、ソフィアを抱きしめる片腕に力がこもる



「ジャック、私の元で働く気はないか?」

「アレクセイ様の……?
それは……王城勤めということでしょうか?
恐れ多いことです。
僕は、なんの身分もありませんので…」

「身分など必要ないだろう。身元引き受け人が必要なら私が保証すれば済む話だ」

「アレク殿下、いったいどういう風の吹き回しですか?
冗談では済まされませんよ。彼の今後の人生を左右することです。
本当に保証してくださるのですか」


「グレッグ、相変わらず厳しいことを言うな、お前でなかったら不敬罪に問うところだ」

「お言葉を返すようですが、あなた様には昔迷惑をかけられましたので」

「おほん、まぁそのことは今はよそう。

それに、指輪の購入に協力したではないか。お前も根にもつよな…

さて、話を戻すが彼の知識は役に立つ。

その知識によって、助けられる命もあるだろう。

だが、今後もよからぬことを考える者が現れるかもしれない。私の元にくれば守ってやれる。

あぁ、それとソフィア嬢も一緒に来るといい」

「冗談ですよね?」

「グレッグ、痛みを原動力ということは、ソフィア嬢にも当てはまるのではないか?

また狙われる可能性も捨てきれない

それにお前と結婚するのならば、やはりそれなりの身分がある方が周囲が静かになるのではないか?

彼女の力も役に立つことがあるかもしれない。私預かりとして二人の王城勤めを認める、お前はそれでも反対するか

まぁ、この容姿であればリリーの縁故であると一目瞭然だがな。
お前は実家を出ているとはいえ、侯爵家同士のつながりを妨害する者が現れるかもしれんしな」


「私は、身分など関係なくソフィアを愛しています‼︎」

「グレッグ様……」

ソフィアは、嬉しくもあり恥ずかしくもあり、耳まで真っ赤に染まる

「お前、堂々と…こっちが照れるな。

今すぐに返事をしろと言っているのではない。

もちろん命令ではないのだから、ゆっくりと考えてみてほしい

決心がついた時にいつでも訪れるといい。いつでも歓迎する」

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