国一番の大悪女は、今から屋敷の外に出て沢山の人達に愛されにいきます
そして、焦ったように眉を(ひそ)めた。

「すみません……! 私も急だったため、何も持っていなくて。マリーナ様、何かお持ちでしょうか?」

クロルの問いに私は持ち物を確認したが、傷を抑えられそうなものはなくて。

その時、クロルが私の持っていたハンカチに気づいた。

「マリーナ様、それは……」

クロルが私の持っていたハンカチに手を伸ばす。




「駄目っ! それはクロルがくれたハンカチでしょ……! 血がつくなんて駄目!」




それは、馬術大会の時にクロルがくれたハンカチだった。

すると、クロルが私を叱るように厳しい声を上げた。






御身(おんみ)より大事なものがお()りですか……!!!」






クロルにそう怒られても、どうしても嫌で私は言い返しそうになってしまう。

「だって……!」

すると、クロルが私の手を噛み締めるようにぎゅっと握った。




「マリーナ様、私はマリーナ様の命令に逆らうことは出来ません。しかし、ハンカチなどどれだけでもこれからも渡しましょう。どうか賢明な判断を」



クロルの言葉に私は、そっとハンカチを差し出した。

クロルがハンカチを受け取り、私の傷の手当てを始める。
< 106 / 127 >

この作品をシェア

pagetop