国一番の大悪女は、今から屋敷の外に出て沢山の人達に愛されにいきます
話を聞きながらも、どこか心がここにない私を侍従のライがじっと見つめている。




「どうした?」




「お逃げしますか?」




その日が初めてだった。

ライからそんな提案が飛び出たのは。

「何を言っている?」

「隣国で勉学を学ぶために留学するのです。資源豊かな隣国ユーキス国との繋がりを増やすためと述べれば、お父上である陛下も止めはしないでしょう」

「そんなことをして何になる? 状況は何も変わらない」

「そうでしょうか? 隣国に出て学ぶことは、隣国で妃を探すためだと我が国で噂を流すのです。そして、兄殿下にはこの国の政権に興味がないことを強調して植え付ける。何より数年この国を離れることは、今のマリス国の王を狙う者にとっては痛手になる」

ライは私と目を逸さなかった。


「お前は、私に王になって欲しいのだと思っていた」


「私が願うのはクラヴィス殿下の幸せです」


その時、ライが久しぶりに幼い頃のように笑った。

私が思っていたよりもずっと私の侍従は私思いだった。




「貴方様がこの生活から離れたいと言うならば、私はどれだけでも手を貸しましょう」




私はその手を取った。




しばらくして王は私に偽りの公爵子息の身分を用意した。

どうやらマリーナ国での繋がりを求めるより、私の学びたい姿勢を優先したようだった。

いや、きっと私がこの身分に苦しめられていたのを知っていたのだろう。

きっとあれは父なりの優しさだった。


そして、私はユーキス国の学園にいる間だけという時間制限付きの自由を手に入れた。


その自由が嬉しくて、ただ平凡に生活出来ているだけで良かった。

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