国一番の大悪女は、今から屋敷の外に出て沢山の人達に愛されにいきます
それでも、一番は……





目に涙が溜まって、一粒こぼれた。





「私もただクラヴィスの隣にいたいだけなのです」





震えた声の告白は止まらなくて。




「クラヴィスとただ毎日話したい。笑っていたい。それ以上の理由なんてないのです」




壊れそうな声で私はただ言葉を紡いでいく。

何を迷っていたのだろう。

何を不安に思っていたのだろう。

ああ、やっと分かった。




怖かっただけだ。




王女だとか、政略結婚だとか、本当は何も関係なくて。

ただ気持ちを否定されることが怖かっただけ。

でも、もう私は勇気の出し方も、度胸の持ち方も知っている。

私はクラヴィスの手をそっと掴んだ。


「マリーナ?」


「クラヴィス、どうか私に勇気を分けて下さい」


私はそう述べて、クラヴィスの手をぎゅっと握った。

さぁ、あとはもう気持ちを口に出すだけ。





「クラヴィス、私は貴方の隣だから勇気も出せるし、度胸も持てるのです」

「だって……貴方が私の味方だと知っているから」

「クラヴィスが私の味方になってくれたように、私もクラヴィスの味方になりたい」





どうか、最後の一言まで声が震えませんように。






「愛しています」





クラヴィスは静かに私と目を合わせていた。

そして、しばらくして口を開いた。





「ねぇ、マリーナ。君が国一番の悪女でも愛しているけれど……それでも、皆に囲まれて笑っている君が大好きなんだ」

「だから、これからだってどちらでもいい」





クラヴィスの言葉の意味がよく分からない。

そんな私の不思議そうな顔を見て、クラヴィスがクスッと笑った。





「私は君が頑張りたいと思う道を応援したいだけ、ということだ」





その言葉がどれだけ愛情がこもっているかなど、考えずとも分かった。

そして、クラヴィスがそっと私の頬に触れる。





「マリーナ、愛している」





クラヴィスが優しく私に口付けた。


「ふふ、私は幸せ者ですわね」


そう言える今があまりに幸せで……だからこそこれからも頑張りたいと思えるのだ。

胸を張って、クラヴィスの隣に立てるように。
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