国一番の大悪女は、今から屋敷の外に出て沢山の人達に愛されにいきます
何も持っていない両手に力を込めても、意味がないことなど分かっているのに。



「いつか、その時が来たら聞いてくれますか?」



本当はもうクラヴィスなら信じてくれると分かっている。

それでも、私はクラヴィスに本当の理由を信じてもらえないことを恐れている。

それくらいクラヴィスに拒絶されることを怖がっている。

それくらい……もうクラヴィスが大切なのだ。

私の問いにクラヴィスは少しだけ笑った気がした。


「君が言いたい時に言えば良い。どんな理由があったにしろ、私はもうマリーナが噂とは違う人物だと知っている」


その時、クラヴィスがそっと私の頬に触れた。



「君が魅力的な人物であることに変わりはないのだから」



クラヴィスが触れた場所から熱が広がっていくような感覚がする。

クラヴィスはそっと私の頬から手を離した。

「そろそろ戻ろうか」

道を戻れば、もう夕陽は沈みかけていた。

クラヴィスと別れた後も、何故かまだ夕陽が沈んで欲しくないと願ってしまう。

まだこの夕陽を見ていたい気がした。
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