国一番の大悪女は、今から屋敷の外に出て沢山の人達に愛されにいきます
それでも、その事が涙が出るほど嬉しくて。

私が起こした行動が無駄じゃなかったと教えてくれている。

これから馬術大会で優勝しようとしていることすら無駄ではないと教えてくれているようだった。

涙を堪える私に、隣を歩いていたクロルが何も言わずにハンカチを差し出してくれる。

「マリーナ様、きっとマリーナ様が国一番の自慢の王女と呼ばれる日も来ます」

「ありがとう。嬉しいわ」

それでも、涙はぐっと堪えた私は、ハンカチを使わずにクロルに返そうとした。

しかし、クロルは何故か微笑んだまま、ハンカチを受け取らない。

「クロル?」

「そのまま持っていて下さい。大会の会場では私はお側にいられません。お守り程度にしかならないとは思いますが……」

クロルの渡してくれたハンカチには、小さな花の刺繍が施されている。

「可愛い刺繍だわ。クロルも可愛らしいところがあるのね」

クロルがその時、小さく呟いた。

「それは……マリーナ様に渡そうと買ったものですので」

「え……! 私が頂いても良いのかしら?」

「はい。今回の大会の練習を頑張っていらしたので、お渡したくて……」

「ふふ、そういうものは優勝してから渡すものでしょう? 相変わらず、クロルは甘いのだから」

「王女であるマリーナ様に渡すのは躊躇(ためら)ったのですが……もっと煌びやかなものの方がマリーナ様に似合ったかもしれません」

クロルが申し訳なさそうに視線を少しだけ下げた。
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