国一番の大悪女は、今から屋敷の外に出て沢山の人達に愛されにいきます
前に私はクラヴィスにこう言った。


「私には本当に度胸があるのか、それとも度胸があるフリが上手いのか、と。もしかしたら、私はフリが上手いだけかもしれない」

「それでも、いつだって諦めずに立ち向かうと決めていますの。だって、きっとそれが格好良い王女というものでしょう?」


私は国民に嫌われている王女だから……沢山の人々に嫌われているからこそ、自分が誇れるような王女でいると決めた。

緊張の解れた手をもう一度見つめる。



「格好良い王女になるのでしょう?」



私はギュッと何も持っていない手を握って、勇気を出した。

予選が始まっても、どこかまだ地に足が着いていないような感覚だった。

それでも、気づけば私は予選で一番にゴールテープを切っていた。

まだ心臓がドクドクと速なっているのが分かる気がした。

そんな心臓を治めるために、私は決勝が行われるまでの時間をテラスで過ごすことにした。

ほとんどの生徒が馬術大会を見に行っているので、テラスには誰もいない。



「マリーナ」



突然後ろから声をかけられて、ビクッと体が震えたのが分かった。

「クラヴィス、どうしてここに……?」

「会場から出ていくマリーナの姿が見えたから。緊張しているの?」

私は近くに置かれているテーブルに視線を落とした。

どこかクラヴィスと目を合わせるのが恥ずかしかったから。



「不思議と今はもう緊張していないのです。ただ……怖い。優勝出来ないことが怖いんじゃない。優勝することが怖いのです」



私の言葉をクラヴィスはただ静かに聞いていた。



「マリーナ・サータディアという大悪女が優勝すれば、それだけで注目を集める。注目を集めるために出るのですから、当たり前のことですわ……しかし、印象が変わる人もいれば、ただバッシングするだけの人もいるでしょう」



ああ、駄目だわ。

クラヴィスと話していると弱音を吐いてしまう。
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