国一番の大悪女は、今から屋敷の外に出て沢山の人達に愛されにいきます
その時、チャイムが鳴り、馬術大会の決勝がもうすぐ始まろうとしていた。


「そろそろマリーナは会場に行かないとね」


「クラヴィス……!」


クラヴィスはいつも通りの微笑みを私に向けて、テラスを出ていく。

私はしばらくクラヴィスの背中から目が離せなかった。


会場に着くと、レースのスタート地点に並ぶ。

私を見つけた生徒たちがザワザワとし始めたのが分かった。


「あの大悪女、本当に出場しているわ」

「大会をめちゃくちゃにするつもりじゃないの。迷惑だわ」

「出なければいいのに」


会場で係員を担当している生徒の声が聞こえる。

私には聞こえないが、きっと観覧席で見ている生徒も同じ反応をしているだろう。

それでも、私は平然と騎乗してスタートラインに立った。


「表情も変えないで……気味が悪いわ」


知ってるわ。

それでも、ここで悲しい顔をするのは私の理想の格好良い王女に反するの。



だから、私は王女らしく微笑んだ。



どこまでの距離の人々が見えているかは分からない。

それでも、きっと小さなことで世界は変わっていく。

スタートの合図である笛が鳴ろうとしていた。





ピー、という音と共に一斉に馬が走り出す。





それでも、私の前を走っている馬は居なくて。
< 85 / 127 >

この作品をシェア

pagetop