国一番の大悪女は、今から屋敷の外に出て沢山の人達に愛されにいきます
馬術大会の夜、私は懐かしい夢を見た。
幼い私が泣き叫んでいる。
幼い私の側には、同い年くらいの男の子が倒れていて。
あの男の子は……無茶をした私を守ってくれた。
私を守って怪我をしたあの子は、無事だろうか。
生きているだろうか。
名前すら知らないあの日初めて会った男の子。
あの後、どれだけ探してもあの子を見つけることは出来なくて。
それでも、その時期に幼い男の子が近くで亡くなったという情報もなかった。
だからもしどこかで生きていてくれているのなら、どうかもう一度会って謝りたかった。
会って、お礼を言いたかった。
会って、元気な顔を見せて欲しかった。
そんな私に「一番会いたい人に会わせてもらえる」という提案はあまりに魅力的だった。
今でも、苦しそうに倒れながら私を見ているあの子の顔が思い浮かぶの。
あの子は苦しそうなのに、私にぎこちなく笑いかけるのだ。
「大丈夫だから」
眠っている私の目からは一粒の涙がこぼれ落ちた。
その涙を拭うようにそっと誰かが私の顔に触れている感覚がする。
これは夢で、そんなことはあるはずがないのに。
「マリーナ、君は……」
途切れ途切れに聞こえた声に私はうっすらと目を開けた。
ぼやけた視界から見えたのは……
「フリク……?」
しかし、そう呟いて起き上がっても、もう部屋には誰もいなくて。
薄暗い私の部屋には、いつも通り月明かりだけが差し込んでいた。