転生したら小説の悲劇のヒロイン(五歳)でした。実は魔王の娘だけど、大好きな温泉を作ってほっこりしていたら、騎士隊長さんに保護してもらえたので、全力で運命(原作)に抗います!

第3話 命の恩人のアリス

「えっ!? 喋った!?」
「うん。神獣だし、喋れるよー?」
「神獣!? ちょっと大きな猫ちゃんじゃなくて!?」

 いや、確かに五歳児と同じ大きさだけど、見た目は完全に灰色の猫で……あれ? お風呂に入って綺麗になったからかな?
 白と黒の縞模様になっている?
 これは猫というよりも、むしろ……虎!?

「君が沢山魔力をくれたおかげで助かったよ。魔族のお嬢さん。ボクは白虎。君は命の恩人だよー!」
「えぇぇっ!? やっぱり虎だったんだ! えっと、何があったの?」
「うーん。簡単に言うと、ボクはこの辺りを守るのがお仕事なんだけど、良くないものが来ちゃってねー。何とか追い払ったんだけど、ボクも力を使い果たしちゃって。で、凄い魔力を感じると思ってやって来たんだけど、力尽きちゃったんだー」

 それで、フラフラで倒れちゃったんだ。
 けど、凄い魔力って何だろう?
 ……この温泉の事かな? 遠くから魔力を感じる程なら、公爵家の人たちがこの魔力を目印にして追って来ちゃうかも。

「もしかして、その凄い魔力って、この温泉の事なの?」
「温泉というより、君自身かな」
「えぇっ!? じゃあ、何もしなくても、私の居場所がバレちゃうって事!?」
「もしかして、何かから逃げて来たの? それならボクが役に立てるかも。君の魔力が凄すぎて周囲に溢れているから、それを隠せるよ?」
「本当っ!? じゃあ、お願いしても良いかな?」
「もちろん! えーいっ!」

 白虎さん? の言葉に合わせて、私の回りに半透明の何かが集まって来て……消えた。
 失敗しちゃったのかな?

「えっと、今のは……」
「ボクの力で、君の魔力を隠したんだよー。これで、見た目には普通の女の子だよ。たぶん、魔族っていう事すら分からないんじゃないかなー?」
「あ、やっぱり魔族ってわかっちゃった?」
「うん。人間と魔族の見た目の差異はないけど、内包している魔力が全然違うもん。けど君の中にある魔力は、魔族の中でも群を抜いているから、たぶん……魔王の娘さんかな?」

 あ、全部バレてた。
 じゃあ、白虎さんに出逢ってなければ、どこへ逃げても公爵家の人に見つかっていたって事なんだ。

「えっと、白虎さん。ありがとう。私、自分の魔力の事とか知らなかったよ」
「お役に立てて何よりだよー! えっと君……というか、名前を聞いてもいいー?」
「あ、私はアリスだよ」
「そうなんだ。可愛い名前だね。アリス、これから宜しくね!」
「……ん? えっと、宜しくって……」
「アリスは命の恩人だもん。それに何かから逃げているんでしょ? これからはボクが傍にいて、アリスを守るよ」

 え!? 白虎さんが私を守る……って、いいの!?
 私としては凄く嬉しいけどさ。

「白虎さんは、いいの? その、私魔王の娘だよ?」
「もちろん構わないよ。魔王って言っても、魔族っていう種族の王っていうだけで、悪い人とかじゃないし。あ、それから、ボクの事はビャクって呼んでね」
「ビャク……ありがとう。でも、私お家に……魔族の国に帰ろうと思っているんだけど、私と一緒に来たら離れちゃうよ? ビャクは、この辺りを守るお仕事があるんだよね?」
「んー、えっとね。ボクたち神獣からすると、この人間の国も、お隣の魔族の国も、どっちも同じ場所なんだー。西大陸……この大陸全てが僕の守る場所だから」

 おっと。ビャクの言うこの辺りが、私の思うこの辺りと、全くスケールが違ったみたい。
 隣の国へ行くくらい、ビャクにとっては何でもないみたいだし、じゃあお願いしようかな。

「えっと、ビャク。じゃあ、私と一緒に来てくれる?」
「うん! えへへ、宜しくね!」
「こちらこそ、よろしくっ!」

 小説の世界へ来て、原作に登場しないと思う、ビャクとお友達になれた。
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