本当はあなたを 愛してました

番外編 幼き日の二人

「ねぇ、ルーカス、早く早く!」

今日は父の所にお弁当を届けに行く日。
お弁当を仕事場に届けるのは大好き。だってお手伝いをして偉いねって、みんなが褒めてくれるの。何よりお父さんに会えるのが嬉しい。

お父さんは最近忙しくて疲れてるらしくて、帰ったらすぐに寝てしまうの。
だから、いつも寂しい…。


「リナ、そんなに走ったら転ぶよ。」

ルーカスは最高の遊び友達。まぁ近くに同じくらいの子がルーカスしかいないんだけどね。

ルーカスは見た目も綺麗で、最初は女の子かと思ったくらい。だから一緒に並ぶのがちょっと苦手。私は平凡な顔だから。

だからいつも私が走って追い越すの。
ルーカスは私より1センチくらい背が低いし、体力的には私のが勝ってると思うんだ。


「あっ」

いけない、考え事してたから段差にきづかなかった。これは、転ぶわ。

私は地面への衝撃に備えて目を瞑る。お弁当の入った籠を必死に抱きしめながら。

「うわっ」
「きゃっ」

地面にうつ伏せになったと思い、慌てて上体を起こす。

一ムギュッ。一

ん?柔らかい。

「へ?ルーカス?なんで?」

「へへへ。リナ、重い…」

私は数歩は後ろにいたはずのルーカスの上にいた。

猛ダッシュで私を抱き止めようとしたのだろう。勢いあまり一緒に転んでしまったが、私はルーカスの上に馬乗りの体制になっていた。

「ごめん!ルーカス大丈夫?」

私は慌てて立ち上がろうとして、急ぐあまりに尻もちをついた。

「もう、リナ、せっかく受け止めたのに。転んだら意味ないだろ。」

ルーカスは起き上がり私の方を見る。
お互いに目が合うと、なんだか急におかしくなった。

「ハハハ。」
「あはは。」

私達は同時に笑っていた。何をしても一緒にいるから楽しかった。

「それにしても、ルーカス、早く走れるのね。ちょっと悔しい。絶対、私の方がルーカスより速いと思ってたのに。」

私は負けず嫌いなのでむくれる。

「あれは、リナを助けたい一心で…」

ルーカスは言いながら俯いたので、最後の言葉が聞き取れなかった。
ルーカスを見ると顔が赤かった。どうしたのだろう。

「でも、さすが私。見てルーカス、お弁当は無事よ。お父さんが待ってる。行かなきゃ」

私はルーカスを置き去りにして先に一人で走り出そうとした。

「リナ!」

グイッとルーカスに腕を掴まれて振り返る。

「もぅ、ルーカス危ない」

「危ないのはリナだよ。一緒に行こう。ほら」

ルーカスは私の手を繋いで歩き出した。

「ねぇ、リナはいつもどうして僕を置いて行こうとするの?」

急に真面目に問いかけられて、何と言ってごまかそうか逡巡していると、

「リナ、誤魔化さないで、教えてよ、ね?」


「う…」

その顔で問い詰めるのはずるい。
恥ずかしくなって今度は私が俯く。

「それは…」

「それは?」

「ルーカスが…綺麗だから」

「は?」

「うるさい、一緒にいると恥ずかしいの!私は平凡だから」

私は手を振り解いて逃げようとした。
でも繋がれた手は離れなかった。
ルーカスを見ると右の口角が少し上がっていた。


「リナは平凡じゃないよ。」

「お世辞はいいから!ルーカスに言われるとなんかむかつく。」

「リナは僕の特別だよ。一緒に行こう」

「えっ、何?特別って?ねぇルーカスどういう意味?」

何度もしつこく尋ねても、結局ルーカスは答えてくれなかった。

商会まで、そのままルーカスと手を繋いで歩いて行った。

「こんにちは。お父さんにお弁当届けに来ました~」







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