本当はあなたを 愛してました

後悔

今までは早めに商会へ行き、ルーカスとその日の業務内容を話し合うのが日課だった。ルーカスが業務に専念できるように雑用や補佐の役割を進んで申し出ていた。日中は忙しいからそれが2人だけで過ごせる大切な時間だったから。
 
ただその日の予定を話すだけだけど、自分が認められた気がして、いつかこうして2人でこの商会を切り盛りする時がくるのだと、未来へと期待が膨らんでいた。

そう、そこが私の場所なんだと、他の誰にも侵すことの出来ない場所なのだと勘違いしていた。何があっても誰にも奪われることのない私の場所だと。


「おはようございます。サラお嬢様、若旦那様」

「あら、リナおはよう。」


朝の挨拶を終えると早々に退室する。
あそこは私の場所だったのに…

サラお嬢様の来られる頻度は日に日に増した。今では毎日来られるのが当たり前になった。そして、毎朝ルーカスと行っていた業務連絡は私ではなくサラお嬢様の役目となっている。 

ルーカスのことは、もう名前で呼ぶことは許されない…

軽く挨拶こそするものの、直接的な指示はサラお嬢様から行われるので、あれからルーカスとはまともに話せていない。

もう一度きちんと話し合いたい。
だって私達の絆はもっと強いものでしょ。

唯一の救いは旦那様(ルーカスの父)は私に対して今までと変わらず接してくれること。私とルーカスのことについては一切触れてこないけど。表面上は何も変わらない。私に興味がないのかもしれないけれど。

そしてサラお嬢様…

サラお嬢様は私にも優しかった。

周囲から孤立する私を見兼ねて、人手が必要な時は真っ先に声をかけてくれ、成果を上げた時は皆の前で褒めてくれ、共に食事を摂ってくれたり、必要以上に何かと接してくれた。

サラお嬢様に頼りにされていると認識されて、周囲からは浮気した女 と距離を置かれていたものが、少しづつではあるけど、表立って罵声を浴びることはなくなっていった。

サラお嬢様が嫌な女ならよかったのに…

サラお嬢様は私とルーカスの関係を知らなかったようだった。
私は思い切ってサラお嬢様に他の支店に異動できないか相談をしてみた。

「ごめんなさい、リナ。
ルーカスから聞いたのだけど、あなた達のこと。私が側にいてリナはつらいわよね。
まぁ、他の支店へ?確かにリナにとっては居心地が悪いわよね…お父様に相談してみようかしら。」

私は父の近くに出来れば異動できないかと相談もしてみた


「いえ、待って、他の支店でリナに何かあったら心が痛むわ。誰も知らない所にいるよりも、私の目の届く所の方がリナも安心だと思うの。」



「リナが異動になったらルーカスが気にすると思うの。
私が追い出したと思われるかもしれないわ、」


「サラお嬢様。そんなことはありません。サラお嬢様のお人柄の良さは皆が知っています。このまま私がここにいるのは…」


ゴーデル男爵家が運営する商会は繁盛しており、男爵とは言えかなりの財力があった。その財力を後ろ盾にしようとサラお嬢様の姉達はそれぞれ伯爵家などに望まれて嫁いでいる。 兄が後継者となるようで、サラお嬢様も嫁がれるものだと思われていた。

だがサラお嬢様は兄の仕事を手伝う事を望み、この商会の運営を引き継ぐ模様だ。

仕草は優雅で経営についても学ばれているお嬢様。 平民の私達にとっては今まで接したことのない別世界の方で、誰もが憧れる方だった。

サラお嬢様はこんな私にも優しい。

必要以上にルーカスという言葉が引っかかるのも、

私をここに引き止めようとしているように感じるのも、


多分私の心が歪んでいるせい


きっと気のせい


私の異動申請は有耶無耶にされた。







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