本当はあなたを 愛してました
終わったこと
商会の一日は慌ただしい。午前中は取引先へ配達へ行く者、仕入れ先卸し先を確認する者、ミスがないかのチェックなど、午後からは次の日の配達の確認準備と詰まっている。
明確な休憩時間は決まっておらず、キリの良いところで一息つくようにしている。旦那様も適度に休憩を挟みながら働いた方が仕事の効率がよくなるとおっしゃっている。
私は一息つこうと休憩室へと向かった。休憩室には先客がいるようだ。扉が少し開いており中から話し声が聞こえる。私も中へ入ろうと扉へと手をかけたが、そのまま開けることはできなかった。
「ねぇルーカスはどう思う?」
サラお嬢様? もしかして中にルーカスもいるの?
私は立ち聞きするつもりはなかったのだけど、何故か凍りたように動くことが出来なかった。
聞きたくもないのに、容赦なく私の耳に声が飛び込んでくる。
「あ、どうって?」
「もぅルーカスったら、ふふふ。アーノルドの話を聞いてたの?」
休憩室には数人の従業員もいるようだ。アーノルドさんは父と同年代の方だ。
「サラお嬢様、その質問はルーカス坊ちゃんには酷な質問ですよ。坊ちゃんすみません。こんな話聞かせるつもりはなかったのですが」
「アーノルドさんは愛妻家ですもんね~。」
「いや、まぁ、わしらは長年連れ添ってますからな。なのに、わしに嘘をついて出かけていて、」
「奥さんは、お友達と出かけると言ってたらしいんですけど、実際は男友達と会ってたのですって」
「まぁ、でも学園の同期生同士で久々に集まったらしいんですよ。わしに誤解されるのが嫌で黙ってたらしいんですがね。その中に妻の初恋の人がいたもんで。」
「やだ~もうアーノルドさん、結局は惚気ですか~」
若い従業員の女の子は、恋バナが大好きで盛り上がっていた。
「食事をするくらい、いいじゃありませんか」
これは…ルーカスの声…?
「だって、奥さん誤解されるのが嫌な程アーノルドさんの事を想ってたってことですよね?」
な…に…を言ってるの?
ルーカス、私には浮気だって話も聞いてくれなかったじゃない。
「ルーカスは優しいのね。じゃあリナはどうだったのかしら。
あら、私ってばごめんなさい…」
どうしてここで私の話になるの?
あなたには関係ないじゃない。
これは私とルーカスの問題だし、みんなの前で言うことではないでしょ。
どうして人の心に土足で踏み込むような質問をするの
ダメ、ルーカス、何も言わないで。
お願い…今は、あなたの声を聞きたくない。
でも、知りたい、ルーカス……ルーカスはどうして話を聞いてくれなかったの? そんなに許せなかったこと?
本当は耳を塞いで立ち去るつもりだった。
けれど、それが出来ない自分がいた。
心臓がドクンドクンドクンと早鐘のように波打ち、早く早く何か言って、とルーカスの言葉を待つもう一人の自分がいる。
「リナは……
リナとはもう終わったんだ。
過去のことはいいだろ。ほら、暗くなる。僕のことより《《サラ》》はどうなんだ?初恋の人とか好きな人とか」
「わぁ、私もそれ聞きたいですお嬢様。」
サラお嬢様のお話へと話題は移ったようだ。
あぁ、そんな……
もう一度話し合えば、もう一度ちゃんと話し合えばきっと私達なら大丈夫だと。
きっと誤解が解けるはずだと、淡い期待をしていた自分が情けない。
なんて、バカな期待をしていたのだろう。
ルーカスにとっては、もう過去の話。
過ぎ去ったこと。
縋り付いて、手放したくなくて、みっともなく忘れられないのは、私だけなのね。
それに、あの呼び方━━
《《サラ》》
お嬢様のことを呼び捨てで呼ぶ関係。貴族と平民の関係で、呼び捨てで呼び合う関係。それはつまり、かなり親しい間柄だということを意味する。
長年培ってきた絆が、確かにあるのだと思っていたのは、私だけだったのね。
あなたも同じ気持ちであると、
想ってくれてるのだと、
幸せだと、
そう感じていたのは、全部私の独りよがりだったのね。
こんなにも簡単に壊れるものだったなんて……。
ここに、私の居場所はない。
足音を押し殺して、そっとそこから立ち去った。
明確な休憩時間は決まっておらず、キリの良いところで一息つくようにしている。旦那様も適度に休憩を挟みながら働いた方が仕事の効率がよくなるとおっしゃっている。
私は一息つこうと休憩室へと向かった。休憩室には先客がいるようだ。扉が少し開いており中から話し声が聞こえる。私も中へ入ろうと扉へと手をかけたが、そのまま開けることはできなかった。
「ねぇルーカスはどう思う?」
サラお嬢様? もしかして中にルーカスもいるの?
私は立ち聞きするつもりはなかったのだけど、何故か凍りたように動くことが出来なかった。
聞きたくもないのに、容赦なく私の耳に声が飛び込んでくる。
「あ、どうって?」
「もぅルーカスったら、ふふふ。アーノルドの話を聞いてたの?」
休憩室には数人の従業員もいるようだ。アーノルドさんは父と同年代の方だ。
「サラお嬢様、その質問はルーカス坊ちゃんには酷な質問ですよ。坊ちゃんすみません。こんな話聞かせるつもりはなかったのですが」
「アーノルドさんは愛妻家ですもんね~。」
「いや、まぁ、わしらは長年連れ添ってますからな。なのに、わしに嘘をついて出かけていて、」
「奥さんは、お友達と出かけると言ってたらしいんですけど、実際は男友達と会ってたのですって」
「まぁ、でも学園の同期生同士で久々に集まったらしいんですよ。わしに誤解されるのが嫌で黙ってたらしいんですがね。その中に妻の初恋の人がいたもんで。」
「やだ~もうアーノルドさん、結局は惚気ですか~」
若い従業員の女の子は、恋バナが大好きで盛り上がっていた。
「食事をするくらい、いいじゃありませんか」
これは…ルーカスの声…?
「だって、奥さん誤解されるのが嫌な程アーノルドさんの事を想ってたってことですよね?」
な…に…を言ってるの?
ルーカス、私には浮気だって話も聞いてくれなかったじゃない。
「ルーカスは優しいのね。じゃあリナはどうだったのかしら。
あら、私ってばごめんなさい…」
どうしてここで私の話になるの?
あなたには関係ないじゃない。
これは私とルーカスの問題だし、みんなの前で言うことではないでしょ。
どうして人の心に土足で踏み込むような質問をするの
ダメ、ルーカス、何も言わないで。
お願い…今は、あなたの声を聞きたくない。
でも、知りたい、ルーカス……ルーカスはどうして話を聞いてくれなかったの? そんなに許せなかったこと?
本当は耳を塞いで立ち去るつもりだった。
けれど、それが出来ない自分がいた。
心臓がドクンドクンドクンと早鐘のように波打ち、早く早く何か言って、とルーカスの言葉を待つもう一人の自分がいる。
「リナは……
リナとはもう終わったんだ。
過去のことはいいだろ。ほら、暗くなる。僕のことより《《サラ》》はどうなんだ?初恋の人とか好きな人とか」
「わぁ、私もそれ聞きたいですお嬢様。」
サラお嬢様のお話へと話題は移ったようだ。
あぁ、そんな……
もう一度話し合えば、もう一度ちゃんと話し合えばきっと私達なら大丈夫だと。
きっと誤解が解けるはずだと、淡い期待をしていた自分が情けない。
なんて、バカな期待をしていたのだろう。
ルーカスにとっては、もう過去の話。
過ぎ去ったこと。
縋り付いて、手放したくなくて、みっともなく忘れられないのは、私だけなのね。
それに、あの呼び方━━
《《サラ》》
お嬢様のことを呼び捨てで呼ぶ関係。貴族と平民の関係で、呼び捨てで呼び合う関係。それはつまり、かなり親しい間柄だということを意味する。
長年培ってきた絆が、確かにあるのだと思っていたのは、私だけだったのね。
あなたも同じ気持ちであると、
想ってくれてるのだと、
幸せだと、
そう感じていたのは、全部私の独りよがりだったのね。
こんなにも簡単に壊れるものだったなんて……。
ここに、私の居場所はない。
足音を押し殺して、そっとそこから立ち去った。