本当はあなたを 愛してました

悪意か善意か

最近サラお嬢様に対して疑問に思うことが増えた。サラお嬢様は本当に善意で私に接してくれているのだろうか。

最初から小さな違和感はあった。けれどそれは私の醜い嫉妬心からくるものだと思った。別れる前ならともかく、ルーカスと別れた後に私に対して嫌がらせをする意味はないと思う。そもそも私とサラお嬢様とでは住む世界も違う。

人の善意を嫌がらせだと、悪意だと疑ってしまう自分の醜さに驚く。私はこんな人間だったのか。


でも本当に私のことを心配しての発言なのだろうか。



毎年この時期になると隣街で大きなパーティーが開かれる。許可された商会はパーティの際貴族の邸宅内の庭園に出店することができるのだ。出店することができれば、貴族の方の目に留まりその後の新たな取引先へと進展することもある。その為競争率が高いので、この時期になると主催者の当主の方との交渉に赴くのだ。

毎年旦那様が父達ベテラン世代の方と共に交渉に赴いていた。出店を許可されることもあれば、ダメな時もある。

交渉が成立した場合は売り上げも上がるので、従業員へも臨時にお給金が支給される。その為この交渉役のメンバーには旦那様が不可欠な存在だった。旦那様がしばらく留守になるので、その間は商会は臨時休業となっていた。

「ルーカス、今年の交渉役はお前に任せる。ゴーデル男爵様の希望でサラお嬢様も一緒にとのことだ。残りのメンバーの選抜はサラお嬢様と相談して決めなさい。決まったら私へ報告するように」


「今年は商会はお休みしないのね」
「隣街へ泊まりがけでしょ」


皆誰が同行するのか知りたくてヒソヒソと話していた。父がいないのできっとベテラン世代のアーノルドさんが選ばれるだろうと誰もが思っていた。

「リナ、ちょっといい?」 

「はい、お嬢様」


私はサラお嬢様へ応接室へと呼び出された。
応接室にはルーカスもいた。


サラお嬢様の隣にルーカスが座ったソファーに向き合って座っている。


久しぶりに間近で見るルーカスは相変わらず素敵だった。一瞬目が合ったような気がしたけど、ルーカスは無反応だった。

「リナ、先程の件なのだけれど、お願いがあるの。
ルーカスと一緒で心強いとはいえ、大役を任されて私達も緊張しているの。邸からメイドの同行も考えたのだけど、今後のことを考えると控えた方がいいと思って。勿論お父様が護衛をつけてくださるから心配はいらないわ。気心の知れたリナと一緒だと嬉しいわ。ねえルーカスもそう思うでしょ?
それにリナを残していくのが心配で…」


正気なの?私とルーカスの事を知っての発言なの?何が心配なの。私は2人がいない方が気が休まるのに。何故こんなにも無神経なことが言えるのだろうか

「と言う事だ。
それにリナもいつか隣街へ行きたいと言っていただろ。父へ報告してくる。」

「…ルー…若旦那様、あの」

ルーカスは応接室を出て行った。残されたのはサラお嬢様と私だけ。

覚えててくれたの?

そう私は毎年父達から隣街の様子を聞いて、いつか行ってみたいと思っていた。それはルーカスも同じで、いつか交渉役に選ばれたらその時は一緒に行こうと話してた。でも…それはこんな形を望んでいた訳じゃない。

ルーカスも何を考えているの。

「ふふ。ルーカスはせっかちな所があるわね。リナもそう思うでしょ。」

「え?は、はい」


「リナ、2人の時はそんなに畏まらないで気軽に接して。リナも薄々分かってると思うけれど、いずれはこの商会の担当は父から引き継ぐ予定なの。だからリナとは年も近いし仲良くなりたいわ。よろしくね」


サラお嬢様の笑顔に曇りはない。本当に私と仲良くなりたいと言っているように見える。

曇っているのは私の心だけ。
私は膝の上にのせた手をきつく握りしめていた。絶対に動揺した姿を見せたくない

誰もサラお嬢様のことを悪く言わない。

ルーカスとお似合いだと

交渉が成功したら婚約するのではないかと

そんな2人の噂ばかりが耳に入ってくる

私の心はどんどん蝕まれていった






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