本当はあなたを 愛してました

宿に戻ってから、しばらくすると皆が戻ってきた。
出迎えた皆の顔は明るい。その表情から、交渉が上手くいったのだと感じられた。


「ルーカス、やったな!」

「アーノルドさんのアドバイスのおかげですよ。それに、今回の一番の功績はサラだ」

「ふふ、たまたま知り合いだったからよ。私1人では上手くいかなかったわ。
リナ、今戻ったわ。」

「お疲れ様でした。」


私は皆に労いの言葉をかける。
どうやら当主様は、サラお嬢様のお知り合いだったようだ。サラお嬢様の人脈は、この先もきっと役に立つのだろう。


「出店が決まったのですね。おめでとうございます」

「あぁ、皆で祝杯を上げよう!」

「アーノルドさんは、自分が飲みたいだけでしょ?」

「支払いは私が持つわ。皆、好きに飲んで。私は、部屋に戻って休むことにするわ」

こういう時は自分がいると気を遣うだろうし、盛り上がれないでしょ?と言われて部屋に戻って行った。
お嬢様がそんなことを言うなんて意外だった。てっきり、ルーカスと一緒にいるものだと思っていたのに。

お嬢様を見送った後、ふとルーカスに視線を向ける。
ルーカス…? どうしてそんな顔をしているの?



「リナも、さぁおいで」

「アーノルドさん、あのっ、私は━━」


せっかくのお誘いだったけれど、

私はサラお嬢様が心配なので、自分も部屋に戻ると伝えた。

アーノルドさんがいるとはいえ、やはりルーカスと一緒にいるのは気まずい。

「じゃあ、男同士で盛り上がろう!ルーカス」

アーノルドさんは、お酒が大好きなので意気揚々とルーカスの肩を抱いて行った。

それにしても、あの時のルーカスの顔……。

サラお嬢様が部屋に戻ると言った時、一瞬だけど右の口角が上がっていた。
昔から知ってる私だから分かる。あれは、ルーカスが嬉しい時の癖。

あまり表情が豊かではないから、分かりにくいけれど。
ルーカスは、サラお嬢様が来ないことが嬉しかったの?


ルーカスに聞くことも出来ないから、憶測でしかないけど。でも、どうして? 喧嘩でもしたのかな。

答えが分からず悶々としながら、部屋へと戻った。

私の部屋はサラお嬢様の隣だ。お嬢様の着替えの手伝いが必要だろうと思い、介助をしようと扉をノックした。

「リナ、着替えなら良かったのに。」

私は、お嬢様が入浴を終えるのを待ち、着替えを手伝う。

お嬢様は、上機嫌で、饒舌だった。

「リナはルーカスと一緒に行かなくて良かったの?」

「2人は幼馴染なんですってね。」

「これからは、私も1人で着替えぐらいできるようにならないといけないわね」

「平民の方はこんな時どうするの?」

もういい加減にして!
少しは黙っていて! お願いだから、放っておいて!

お土産を購入した時のウキウキとした気分から一転、私の心はどす黒く塗りつぶされていく。

どうして、そんなにルーカスとのことを聞くの?

暗に自分が平民になるかもしれないと仄めかすの?

それは、あなたが、

ルーカスと結婚すると言いたいの!


私の口から何を言わせたいの?

泣きそうな私を見て、いい気味とでも見下してるの?

優しい言葉をかけるふりして、本当は私をばかにしてるんでしょ!

もう、お願いやめて!


淡々と受け答えをしながら、
心の中では必死に叫び声を上げていた。

もうこれ以上聞きたくない。

限界が近づいてくると、これ以上心に響いてこないように、無意識に耳に蓋をする。
サラお嬢様の声が、私の耳を素通りしていくように。

もう、正直鬱陶しい…

どんどん醜くなる自分も嫌。

サラお嬢様とこれ以上一緒にいるのは耐えれなかった。


黙々と介助を終えると、即、退室した。

お茶でも飲みながら話しましょう、というお誘いも無視して。

明日へは街へ帰れる。
もう少しの我慢…

嫌な気持ちを洗い流すように、勢いよくシャワーを浴びて、ベッドに横になった。

もう、早く帰りたい



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