アイドルに推された私  仕事の依頼主は超人気者

帰り道での出来事

 カツカツカツと歩道を歩く唯。
 歩道の脇の街路樹はクリスマス仕様にライトアップされている。

 時刻は夜の九時半、クリスマスイブの街中はカップルや家族連れで賑わっている。
 ショーウインドウに飾られているお洒落なバックを見つめる唯。
 「綺麗な色だな。クリスマスイブか」と呟いた。
 「でも……私、よく考えたらあの『RAIN』のメンバー宅に自由に出入り出来て
(仕事だけど)それに、今夜クリスマスイブに二人で食事して二人で過ごして明日の夜も一緒に過ごすのか。
(仕事だけど)千春をはじめ『RAIN』のファンが知ったら潰されるよね……絶対」
 とショーウインドウの前に立ち独り言を言う唯。
 ショーウインドウに写る唯の姿。
 そして、ショーウインドウのガラスにスーツ姿の男性が写った唯は驚き後ろを振り返る。
 男性が唯に向かって話しかけてきた。
 「あの、すみません少しお時間ありますか?」
 驚く唯。
 「お時間はありません、ナンパなら結構です」
 少し語気を荒げる唯。
 そして、その場から立ち去ろうと歩き出した。
 「あ……ちょっと待って下さい。私は怪しい者では
ありません」
 と唯を追いかける男。
 逃げる唯……。
 すると彼女の前に一人の女性が立ちはだかると唯の足が止まった。
 真っ赤なコートの襟を立て金髪のご婦人が唯に
ゆっくりと近づくと、
 「この男が失礼しました。あなた今お暇? 少し、私とお茶を飲まない?」
 
 蛇に睨まれた蛙……というのはこのことだ……と
唯は心の中でそう思った。
 ご婦人と男性に連れられ唯は近くの喫茶店に入って行った。
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