アイドルに推された私 仕事の依頼主は超人気者
「はぁ……」と外のベンチに座り大きな溜息をつく唯。
「やっぱりだめだ。私には無理だ」と弱音を吐く唯。
「壁にぶち当たってるんだって? キヌコさん……」と後ろから声がした。
「えっ……この声……」聞き覚えのある声に唯が慌てて振り向いた。
ポケットに手を突っ込み笑顔で微笑む悠が立っていた。
「悠……悠さん……」と驚く唯。
「キヌコさん……久しぶり」と言うと悠が唯の隣に座った。
「悠さん、お久しぶりです」少し恥ずかしそうな唯。
「あれ? キヌコさんどうしたの? 少し照れてる?」と悠がクスッと笑った。
「そりゃぁ、照れますよ。こんな、間近で……それもドアップで」
「ね~、キヌコさん、大丈夫?」
「何がですか?」
「悩んでるんでしょ? 元気もないし……」
「なんで、わかるんですか?」
「そりゃぁ~『推し』のことはわかるよ。なんとなく……だけど」
悠の顔を見た唯が少しづつ話し始めた。
「お芝居の稽古で、どうしてもできない演技があるんです。何回やっても
ちゃんとできなくて……怒られてばかりで……もう、私だめかも……」
「へぇ~、どんな場面なの?」と悠が聞いた。
「恋人同士の設定で、ただ見つめ合うだけなんですけど……私からは何にも伝わってこないって……」
「ふ~ん、そうなんだ……」と考え込む悠。
そして、突然ベンチから立ち上がると、
「キヌコさん……俺と一緒に来て……」と言うと唯の手を引き歩き出した。
「悠さん? どうしたんですか?
何処に行くんですか?」と尋ねる唯。
悠は、人気のない建物の裏に唯を連れて行くと、
「キヌコさん、本当の名前教えてよ」と言った。
「は?」と驚く唯。
「ねぇ、教えてよ。約束したでしょ?
今度会ったら教えるって、メモに書いて
あったよね? 連絡先は言わなくていいから名前……
教えて……」
少し驚いた唯であったが、メモ用紙に書いたことを思い出すと、
「わかりました。教えます……私の名前は、唯……上村唯です」と言った。
「唯……唯ちゃん……」と悠が呟いた。
「こんなんでいいですか?」
「教えてくれてありがとう。それじゃ、こっちに来て」
と言うと、悠は唯の手を取り自分の方へ彼女を引き寄せそのまま壁に押し付けた。
悠から、壁に押し付けられた唯……、
「悠さん、どうしたんですか?」と驚く唯。
真顔になった悠は、
「ねぇ、唯ちゃん、俺の瞳を見て……」と囁いた。
「えっ? どうしてですか?」
「いいから、俺の瞳を見て……」
悠の言葉に戸惑う唯であったが、彼に言われる通りに悠の瞳を見つめた。
「俺の瞳の中に何が映ってる?」
「え……っと、よく見えません……」
「よく、見てよ」悠の言葉にハッとした唯は悠の顔を見上げた。
「俺には見えるよ、唯の瞳の中に映る俺が」
悠が唯の両腕をそっと掴むと 唯は全身が震えるのを感じた。
「ね……今、どんな気持ち? 言ってみて」
「胸がドキドキしてます……」
「俺はどんな表情してる?」
「私の瞳を見つめて、全身から、その……相手に対する愛情みたいなものが……
溢れだしてるような……そんな顔をしています……」
「唯ちゃん、これが、表現するってことだよ」
唯は、下を向いて黙り込んだ。
そして……ゆっくりと顔を上げると、
「悠さん……」唯が悠の両腕を握り返し今度は唯が悠を見つめた。
切ない瞳で悠を見上げる唯の潤んだ瞳は彼を見つめ続ける。
彼の腕を握った手に微かに力が入る。
さっきまでの表情とは明らかに異る唯……唯の表情を見た悠は……
自然と唯を抱き寄せた。
唯を抱きしめた悠、彼の腕の中で彼の鼓動に耳を傾ける唯……
それは、まるで……映画のワンシーンのよう……。
「……」
「キヌコさん?」と悠が唯に話しかける。
「何でしょうか?」
「やれば、出来るじゃん……」
「そうですか? ありがとうございます。でも何で急にキヌコさん呼びに?」
「さぁ、何でだろうね……こっちの方がしっくりくるからかな?」
「そうですか……私はどちらでもいいんで」
悠が唯から身体を離すと笑顔で、
「大丈夫だよ。今みたいにやれば必ずできる……。だから今の感覚を思い出して……」
「悠さん、ありがとうございます。
やっぱり救世主ですね……。悠さんは」
「救世主? 俺が?」
「はい……。私が悩んだりしてると、必ず助けてくれて
背中を押してくれる」
唯が満面の笑みを浮かべた。
悠は唯に近づくと頭にそっと手を乗せ、
「頑張れよ~キヌコさん、俺の『推し』!」と言った。
唯が、控室に戻ると広げた重箱が綺麗に重ねられて
いた。
彼女が片付けようとテーブルから重箱を上げた。
「ん? これは?」
重箱の下に、一枚のメモ用紙が置かれていた。
そこには……
キヌコさんへ
だし巻き卵、相変わらず美味しかった。
でも、俺以外の人に作ってるのがちょっとイヤかも……
色々あるけど、頑張れ! 応援してるよ。 東田
と書かれてあった。
悠と唯にしかわからない『キヌコ』と『東田』という
ワード……。
唯は、悠が書き残したメモを握りしめると、
「頑張ります。そして、いつかきっと……」と呟いた。
撮影が終わり帰りの車中で、
「唯ちゃん、何か表情が違うよね。何か得るものが
あった?」と水月が言った。
「もう、いっぱいありすぎてお腹いっぱい」
笑顔で答える唯。
唯の表情をルームミラーで見た伊藤は頷き優しく微笑んだ。
「やっぱりだめだ。私には無理だ」と弱音を吐く唯。
「壁にぶち当たってるんだって? キヌコさん……」と後ろから声がした。
「えっ……この声……」聞き覚えのある声に唯が慌てて振り向いた。
ポケットに手を突っ込み笑顔で微笑む悠が立っていた。
「悠……悠さん……」と驚く唯。
「キヌコさん……久しぶり」と言うと悠が唯の隣に座った。
「悠さん、お久しぶりです」少し恥ずかしそうな唯。
「あれ? キヌコさんどうしたの? 少し照れてる?」と悠がクスッと笑った。
「そりゃぁ、照れますよ。こんな、間近で……それもドアップで」
「ね~、キヌコさん、大丈夫?」
「何がですか?」
「悩んでるんでしょ? 元気もないし……」
「なんで、わかるんですか?」
「そりゃぁ~『推し』のことはわかるよ。なんとなく……だけど」
悠の顔を見た唯が少しづつ話し始めた。
「お芝居の稽古で、どうしてもできない演技があるんです。何回やっても
ちゃんとできなくて……怒られてばかりで……もう、私だめかも……」
「へぇ~、どんな場面なの?」と悠が聞いた。
「恋人同士の設定で、ただ見つめ合うだけなんですけど……私からは何にも伝わってこないって……」
「ふ~ん、そうなんだ……」と考え込む悠。
そして、突然ベンチから立ち上がると、
「キヌコさん……俺と一緒に来て……」と言うと唯の手を引き歩き出した。
「悠さん? どうしたんですか?
何処に行くんですか?」と尋ねる唯。
悠は、人気のない建物の裏に唯を連れて行くと、
「キヌコさん、本当の名前教えてよ」と言った。
「は?」と驚く唯。
「ねぇ、教えてよ。約束したでしょ?
今度会ったら教えるって、メモに書いて
あったよね? 連絡先は言わなくていいから名前……
教えて……」
少し驚いた唯であったが、メモ用紙に書いたことを思い出すと、
「わかりました。教えます……私の名前は、唯……上村唯です」と言った。
「唯……唯ちゃん……」と悠が呟いた。
「こんなんでいいですか?」
「教えてくれてありがとう。それじゃ、こっちに来て」
と言うと、悠は唯の手を取り自分の方へ彼女を引き寄せそのまま壁に押し付けた。
悠から、壁に押し付けられた唯……、
「悠さん、どうしたんですか?」と驚く唯。
真顔になった悠は、
「ねぇ、唯ちゃん、俺の瞳を見て……」と囁いた。
「えっ? どうしてですか?」
「いいから、俺の瞳を見て……」
悠の言葉に戸惑う唯であったが、彼に言われる通りに悠の瞳を見つめた。
「俺の瞳の中に何が映ってる?」
「え……っと、よく見えません……」
「よく、見てよ」悠の言葉にハッとした唯は悠の顔を見上げた。
「俺には見えるよ、唯の瞳の中に映る俺が」
悠が唯の両腕をそっと掴むと 唯は全身が震えるのを感じた。
「ね……今、どんな気持ち? 言ってみて」
「胸がドキドキしてます……」
「俺はどんな表情してる?」
「私の瞳を見つめて、全身から、その……相手に対する愛情みたいなものが……
溢れだしてるような……そんな顔をしています……」
「唯ちゃん、これが、表現するってことだよ」
唯は、下を向いて黙り込んだ。
そして……ゆっくりと顔を上げると、
「悠さん……」唯が悠の両腕を握り返し今度は唯が悠を見つめた。
切ない瞳で悠を見上げる唯の潤んだ瞳は彼を見つめ続ける。
彼の腕を握った手に微かに力が入る。
さっきまでの表情とは明らかに異る唯……唯の表情を見た悠は……
自然と唯を抱き寄せた。
唯を抱きしめた悠、彼の腕の中で彼の鼓動に耳を傾ける唯……
それは、まるで……映画のワンシーンのよう……。
「……」
「キヌコさん?」と悠が唯に話しかける。
「何でしょうか?」
「やれば、出来るじゃん……」
「そうですか? ありがとうございます。でも何で急にキヌコさん呼びに?」
「さぁ、何でだろうね……こっちの方がしっくりくるからかな?」
「そうですか……私はどちらでもいいんで」
悠が唯から身体を離すと笑顔で、
「大丈夫だよ。今みたいにやれば必ずできる……。だから今の感覚を思い出して……」
「悠さん、ありがとうございます。
やっぱり救世主ですね……。悠さんは」
「救世主? 俺が?」
「はい……。私が悩んだりしてると、必ず助けてくれて
背中を押してくれる」
唯が満面の笑みを浮かべた。
悠は唯に近づくと頭にそっと手を乗せ、
「頑張れよ~キヌコさん、俺の『推し』!」と言った。
唯が、控室に戻ると広げた重箱が綺麗に重ねられて
いた。
彼女が片付けようとテーブルから重箱を上げた。
「ん? これは?」
重箱の下に、一枚のメモ用紙が置かれていた。
そこには……
キヌコさんへ
だし巻き卵、相変わらず美味しかった。
でも、俺以外の人に作ってるのがちょっとイヤかも……
色々あるけど、頑張れ! 応援してるよ。 東田
と書かれてあった。
悠と唯にしかわからない『キヌコ』と『東田』という
ワード……。
唯は、悠が書き残したメモを握りしめると、
「頑張ります。そして、いつかきっと……」と呟いた。
撮影が終わり帰りの車中で、
「唯ちゃん、何か表情が違うよね。何か得るものが
あった?」と水月が言った。
「もう、いっぱいありすぎてお腹いっぱい」
笑顔で答える唯。
唯の表情をルームミラーで見た伊藤は頷き優しく微笑んだ。