アイドルに推された私 仕事の依頼主は超人気者
キヌコさん六十三歳……再び
マンションの自動ドアが開くと仕事を終えた悠が入って来た。
悠がEVの前に立つと、コンシェルジュの林が悠に声をかけてきた。
「東田様、おことづけがございます」と言うと悠に折りたたまれたメモ用紙を渡した。
悠は、林から折りたたまれたメモ用紙を受け取るとメモに記載された内容を読みはじめた。
悠が読み終える頃に林が悠に尋ねた。
「東田様、いかがされますか?」
悠は微笑み、
「もちろん、お願いします」と言い、EVに乗り込むと
ドアが閉まった。
エントランスロビーのカウンターに戻ってきた林に別のコンシェルジュが言った。
「いいのか? そんなことして……」
「東田様がご希望されたんだからいいんだよ。
それに、当人から直接伝えたほうがいいだろ?」
と林が言った。
「まぁ、そういうことならいいか」
コンシェルジュが呟いた。
一時間後、ロビーカウンターに女性の姿が現れた。
綿あめのようなたてに伸びるフワフワした少し茶色の
髪の毛……。
いわゆる、アフロへアもどきの髪型、無地のトレーナーに黒いスラックス、
足元はスニーカーを履いた……
そう、『キヌコさん六十三歳仕様』の唯。
「お久しぶりです。キヌコ様、お待ちしておりました。
どうぞ……」
と言うとコンシェルジュの林はニコリと微笑み、EVを指差した。