アイドルに推された私  仕事の依頼主は超人気者

思うそうだね……大丈夫?

 ライブが終り、両手にグッズを持ってライブ会場から続く港沿いの遊歩道を歩く唯。
 時折吹く風が潮の匂いを運んでくる。
 遊歩道には所々に街灯が設置されベンチもあり、遊歩道をジョギングする人を見ながら歩いていた唯が立ち止まった。
 ライブ中、ずっと立っていた唯は本当に疲れていた。
「帰ったら、お風呂に入って一息ついたら、千春の家に行こうかな……」と言うと荷物を持ち直し歩き出した。
 ライブハウスから、ワゴン車に乗って移動中の『RAIN』の五人、ライブ会場へ続く港沿いを通りかかる。
 すると、車内に響き渡る声で心が言った。
「ねぇ~皆見てよ。あれ……」と指差す心、それにつられて四人が窓から外を見ると、
「わっ! 凄い」と翼が叫んだ。
「あれは、本当に……すごい」と感心する友。
「思わず手伝いたくなるな」と呟く良。
皆が見ている方向を見つめた悠……。

 『RAIN』四人が驚いていた光景とは大きな、大きな、
黒いトートバックに沢山の『RAIN』のグッズを入れて歩く唯の姿。
トートバックからは今にも溢れんばかりの『RAIN』グッズの数々。
「あれは、箱推しだね。全種類のグッズ購入してもらったんだ。金額……相当になるね、申し訳ないな」と良が呟いた。
「あ~あ、あの子グッズの重みで足元ヨロヨロしてるぞ。転ぶんじゃないか?」
 と翼が申し訳なさそうに呟いた。
「車、停めて……」と悠が突然声を発した。
 キキキ……。車が道路に停車すると悠は自分の荷物を持ちワゴン車のドアを開け外に出た。
 驚く四人のメンバーたち、
「悠、どうしたんだ?」友が尋ねた。
「俺、ちょっと行って来るよ。すぐ合流するから皆は先
行っててよ」
 と言うと悠が来た道を戻るために走り出した。
 悠を車内から見送るメンバー四人、
「どうしますか?」と運転スタッフが友に聞くと、
「じゃあ、この先の△△××に向かってください」と友が返事をした。
 四人を乗せたワゴン車はその場から走り出した。

「重い……。でも、車道までなんとか歩いて行かないと」
 両肩にかかる重みに耐えながら歩く唯。
「会場からタクシーに乗ればよかった……」
 と後悔する唯。
「あ~もう限界、だめだ」
 唯の両方の荷物が地面に落ちそうになった瞬間、
トートバックのひもが彼女の肩から取り上げられた。
「え……?」唯が驚き後を振り向いた。
 帽子を深々と被り、メガネをかけた男性が唯の持って
いた大荷物を両手に持っていたからだ。

「重そうだね。大丈夫?」と声をかけてくる男性に
唯は慌てて、
「すみません。大丈夫です」と返事を返した。
 男性はクスッと笑うと、
「こんなに、沢山買ってもらったからさ。
 お礼にタクシーつかまる所まで運ぶの手伝うよ……」と呟いた。
 男性の言葉に思わず唯は「ん?」と首を傾げたがすぐに彼が言った言葉の意味を理解した。

「あなた、さっきのライブの人……」と驚く唯。
 彼女の言葉を聞いた男性は、
「なんだ。箱推しでもファンでもないじゃん」
 そして、メガネを取り唯の顔を見ると、
「どうも、さっきそこでライブをやってた人、
『RAIN』の悠です」と言った。
 驚く唯……。
「ねぇ、君、そこのベンチで少し話そうよ」と言うと悠は荷物を抱えベンチに向かって歩き出した。
< 5 / 35 >

この作品をシェア

pagetop