アイドルに推された私  仕事の依頼主は超人気者

ベンチでのおしゃべり

 荷物を両手に持ちベンチに座った悠、ニコリと笑うと唯に隣に座るように手招きをする。
 唯は悠の隣に座ると、
 「あのう……箱推しではない件についてですが」と唯が口を開いた。
 隣で膝に頬杖をついて唯の顔をじっと見つめる悠。
 「その……すみません。私はその……箱推しでもなければ、ファンでもなくて」
 唯がすまなさそうに言った。
 「そんなにストレートに言わなくてもいいじゃん。
傷ついたな~」と悠が笑った。
 「今日のライブ、本当は私の親友が行く予定だったんですが、風邪で寝込んでしまって、
それでその親友からライブへの参加とグッズを全種類購入してきてほしいと拝み倒されて、それでライブを見に来ました」
 「そうだったんだ。で、どうだった? 聞かせてよ。ライブの感想」
 「あっ……え~っと、凄く良かったです。皆さん歌も上手くてダンスもカッコよかったですし……」
 それを聞いた悠は、
「模範的な回答ありがとう」と微笑んだ。
「本当ですよ。だから、これからも頑張ってください」
「ありがとうね」
 二人は、ベンチから立ち上がると車道まで歩き、唯は
タクシーを拾い家路についた。
 タクシーを見送った悠は駆け足で友等四人が待つ場所まで走り出した。
 ハザードを付けたワゴン車のドアが開き、
「待たせて、ごめんな」息を切らした悠が乗り込むと、
「悠、一人だけ何してたのさ」翼が悠に話しかけた。

「うん、荷物持ちの手伝い」
「はっ? 何それ」首を傾げる翼等メンバー四人、
「いいの、いいの」と言うと悠はイヤフォンを耳につけ、音楽を聴き始めたのであった。
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