大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~

離れの人

 志乃のしゃくりあげる声が小さくなって来た頃、花奏が畳の上に落ちた封筒を拾い上げた。

「志乃、もうよい。夜も更けてきた」

 花奏はそう言うと、志乃の手に封筒を握らせ、ロウソクの火を消そうと仏壇の方へ向く。

「……待ってください」

 志乃は必死に声を出すと、封筒を握り締めながら顔を上げた。


 なぜ花奏が、死神と呼ばれるようになったのか。

 志乃は初めて、その理由を知った。

 でもそれはまだ、花奏の抱える本当の過去には近づけていない。


 なぜこの家に、多くの身寄りのない病の人を迎え入れるようになったのか。

 そして、花奏が亡くしたという身内は誰なのかは、わからないままなのだ。


 ――私は旦那様に聞かなければいけない。たとえ、嫌われたとしても……。


 それが花奏を過去から救う、一筋の光になるならば……。


 大きく息を吸った志乃は、意を決すると、不思議そうな顔をする花奏の瞳を見つめる。

「旦那様、お聞かせください」

「……何をだ?」

「なぜ旦那様は、身寄りのない多くの方を、この家に迎えられたのですか? そして……」

「そして?」

 花奏は首を傾げている。
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