大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
「旦那様が亡くされたお身内の方とは……一体どなたなのですか?」

 真っすぐに響く志乃の声を聞いた途端、ロウソクの前に伸ばしていた花奏の手がぴたりと止まる。

「それを、どこで……?」

 目を細めた花奏の声は、さっきまでとは違い、驚くほど硬く聞こえた。


「田所先生から、お聞きしました……」

「田所から?」

 花奏は、小さく瞳を揺らすと、再び仏壇に向き直る。

 志乃はひるみそうになる自分を奮い立たせると、もう一度花奏に大きく問いかけた。


「旦那様が先ほど手に取った位牌は、その方のものですか?」

 志乃の声に、花奏は静かに目を閉じる。

 それからしばらく、花奏は硬く口を閉ざしてしまった。


 どれほど時間が経ったのだろう。

 時折ロウソクの炎が、チリチリと音を立てて揺れ、二人の影を浮きだたせた。

「志乃には言わずにおきたかったのだ」

 しばらくして、花奏が小さく口を開く。

「志乃には、このまま何も知らずに、この家を去って欲しかった」

「どういう、ことですか……?」

「話を聞けば、お前は俺がいかに(いや)しい男かを知ることになる」

 そう言いながら振り向いた花奏の瞳は、心もとなく揺れている。
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