大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 香織の夫は根っからの遊び人で、最初こそ良かったものの、しばらくすると我慢できなくなったのか、すぐに家を空け外に出ていくようになった。

 ほとんど家には寄りつかず、時折ひょいと顔を見せる程度。

 (めかけ)を何人も囲い、子も()していたが、誰一人それを(とが)める者もいなかった。

 というのも、香織にはなかなか子ができず、それがわかった途端、(しゅうとめ)は手のひらを返したように香織にきつく当たりだしたからだ。

 そして香織は、茶会や集まりがある日には綺麗な格好をして箏を弾かされるが、それ以外はまるで使用人のような暮らしを強いられていたという。


「ひどい……」

 志乃は思わず両手で口元を覆う。

「それもすべて、香織が死んだ後に知ったことだ……」

 花奏の苦しい声に、志乃の胸はえぐられたようになる。


 なぜ香織は、そんな仕打ちを受けてまで、家を飛び出さなかったのか。

 そう考えて志乃は小さく首を振る。

 それはきっと花奏のためだろうと。


 ――香織様は、兄である旦那様のために、苦しくても悔しくても、堪えていたんだ。
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