大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 花奏は目を開けると、潤んだ瞳を志乃に向ける。

「志乃。お前は俺が心優しいと言ったが、そうではない。俺はたんなる偽善者だ。他人に手を差し伸べることで、妹への罪滅ぼしをしているだけなのだ。結局は自分のため。そうでもして自分を慰めなければ、俺は自分自身を見失ってしまう……」

「そんなこと……」

「ここに来た者は皆、俺に礼を言った。最後にありがとうと……。その言葉を聞く度に、結局また命を救えなかったと苦しんだ……」

 花奏はそう言うと、うつむいて額に手を当てる。


 志乃は大きく手を伸ばすと、そのわずかに震える花奏の身体を、包み込むように抱きしめた。

 花奏がはっとして顔を上げる。

 志乃はそのまま手にぐっと力を込めた。


「たとえ偽善であったとしても、旦那様は、ここで亡くなった者たちにとっては、唯一の救いだったのです。最後の時を穏やかに過ごせる、光だったのです。私はそれを信じます」

「志乃?」

 花奏の声が耳元で聞こえる。

 志乃はさらに力強く花奏を抱きしめた。
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