大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
「次は私が旦那様をお救いします。香織様が、最後の時まで守りたかった旦那様を、私がお守りします」

「志乃、お前何を……?」

 花奏は志乃の肩を両手で支え、身体を離すと、そっと目の前に座らせる。

 志乃は涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げると、驚いたような目をする花奏を見つめた。


「私は決して、この家を出ては行きませぬ。私は旦那様の妻なのです」

 志乃はそう言うと、畳に置かれていた封筒を手に取る。

「これはお返しします。いつの日か、旦那様に本当の笑顔が戻ったなら、その時は喜んでそれを受け取りましょうぞ」

 にっこりとほほ笑む志乃に、花奏は大きく首を振る。


「志乃。何を言っておる。お前はまだ若い、これからではないか。お前にはもっと幸せになれる相手がきっといるはず」

「そんなことはありません!」

 志乃はそう言うと、ばっと立ち上がる。

「俺は死神なのだぞ」

 花奏もゆっくりと立ち上がった。


「私は死神の旦那様のお側が良いのです。一切出ていく気はございません。そのお金は、棚の隅にでも入れておいてくださいませ」

 志乃はそう言うと、ぷいっと顔を後ろに背けてしまう。

 花奏はどうしたら良いものやと、頭を振った。
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