大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 静まり返った時間が流れた後、しばらくして花奏が重い口を開いた。

「わかった。志乃の好きにしろ……」

 その声を聞いた途端、志乃はぱっと振り返る。

 そして花奏にぐいっと顔を覗き込ませた。


「はい。好きにさせていただきます。おやすみなさいませ、旦那様」

 志乃はくるりと背を向けると、勢いよく障子を開き、仏間を飛び出ていく。

 花奏はあまりの志乃の威勢のよさに、呆気にとられたようにため息をついた。


「志乃は、本当に面白い娘だ……」

 するとくすりと肩を揺らした花奏の耳に、フォッフォッという笑い声が障子の奥から聞こえてくる。

「五木、盗み聞きとは趣味が悪いぞ」

 花奏の声に障子がゆっくりと開き、畳に座している五木が姿を現した。


「あれだけ大きな声でお話になっていては、耳を塞いでいても聞こえてしまうというもの。ですが……」

「なんだ?」

 五木は涙を堪えるように、しわがれた笑顔を花奏に見せる。

「志乃様に、救われましたな……」

 口元を震わせる五木に、花奏は目を見開くと、ロウソクに照らされる位牌を振り返った。

 その光はまるで喜ぶかのように、ゆらゆらと瞬いている。


「そうかも知れんな……」

 花奏は自分自身にそうつぶやくと、目頭をそっと手で押さえた。
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