大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 志乃はどすどすと大きな足音を立てて廊下を進むと、障子を大袈裟に開けて自分の部屋に入る。

 そのまま真っ暗い部屋を進み、部屋の真ん中に来たところで、畳の上へ急にへたり込んだ。

 そして顔を両手で覆うと、「わぁっ」と声を上げて泣き出した。


 志乃は、花奏の抱える過去を知った。

 でもその過去は、あまりにも苦しく大きいものだった。


「旦那様は、死神などではなかった……」


 皆から死神と恐れられている人は、自らの過去を責めて悔やんでいる、心優しき一人の男性だった。

 ただ苦しんでもがいている、一人の人間だったのだ。


 志乃はのそのそと立ち上がると、文机のランプに灯をともす。

 すると、ぼうっと揺らめく光の中に、死神に宛てた手紙が浮かび上がった。

「それでも私は、旦那様をお支えしたい」

 志乃はそうつぶやくと、手紙の上に置かれていた秋桜の押し花を手に取る。

 淡い薄桃色の花弁は、光に照らし出され、まるで秋の夕暮れのひとコマのようだ。


 ――この温かな光のように、旦那様の心も溶かしてゆくことができれば……。


 志乃は願いを込めるように、秋桜を手紙の中に戻すと、そっとランプの灯を消したのだ。
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