大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~

新しい朝

 朝日がチラチラと瞼をくすぐり、鳥のさえずりと共に志乃は目を覚ました。

 ぱっと身体を起こした志乃は、昨夜の出来事を思い出して急に全身が熱くなる。


 ――私ったら、旦那様になんてことを……。


 いくら必死だったからとはいえ、花奏の背に手を回し、力いっぱい抱きしめてしまったのだ。

 今更ながら、なんて大胆なことをしてしまったのかと、赤面してしまう。

 そして「死神の旦那様のお側がよい」と大声で叫び、(しま)いには涙でぐちゃぐちゃになった顔で、怒ったように封筒に入ったお金までも突き返してしまった。


「旦那様は、はしたない娘だと、呆れておいでではないかしら……」

 次第に不安になってきた志乃は、そわそわと身支度を整える。

 いつもより丁寧に(くし)で髪をとかし、いつもよりしっかりと髪をまとめ髪に結った。


 鏡台を覗き込むと、やはり昨夜大泣きしたせいか、少し目が腫れぼったい気がする。

 志乃は自分の頬をパチパチと小さく叩き、「よし」と力強くうなずいてから立ち上がった。

 すると部屋の障子を開けた途端、向かいの部屋で同じように障子を開けた花奏と、ばったりと遭遇してしまった。
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