大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
「旦那様、今日はお出かけのご予定で?」

 五木が花奏の茶碗を受け取りながら、穏やかな声を出す。

「そのつもりだ」

 花奏は低い声を出しながら、そっと顔を上げた。

 目線の先では、志乃が五木から受け取った茶碗に、お(ひつ)からご飯をよそうのが見える。


「では車のご用意を」

 五木はそう言うと「よいしょ」と腰を上げ、座敷を出て行った。

 すると志乃が、盆にのせた茶碗をそろそろと花奏の前に運んでくる。

 志乃の華奢(きゃしゃ)な手が花奏の前に伸びた時、花奏はそっと志乃の顔を伺った。


「志乃、少し顔が赤いのではないか? 朝もそうだったが、気分でもすぐれぬか?」

 そう言いながら再び顔を覗き込ませると、志乃が真っ赤な頬をさらに赤くしながら勢いよく立ち上がる。

「そ、そんな事はございません! 私はいつも元気でございます!」

 志乃はなぜがぷりぷりと頬を膨らませると、そのまま足を鳴らしながら自分の席へ戻った。


「おい、志乃……」

 戸惑う花奏をよそに、志乃は勢いよく箸を掴むと、もぐもぐとご飯を頬張りだす。

 しばらくして部屋には、志乃がぽりぽりとかじる、たくあんの音が響き出した。
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