大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
「そんなに焦らずとも……」

 花奏はそう声を出そうとして、すぐに口をつぐむ。


 ――すっかり、忘れていたな……。


 花奏は美味しそうに、ご飯を頬張る志乃を見つめた。


 ――誰かと食事を取ることは、こんなにも心穏やかな時間だっただろうか……。


 遠い昔、意図せずに感じていたこと。

 それは、失った時には気がつかず、再び触れた時には、こんなにも心に響くものなのか。


「おや、旦那様。そんなに、ほほ笑まれてどうされましたか?」

 しばらくして、座敷に戻ってきた五木が目を丸くした。

「俺は、ほほ笑んでいたか?」

 驚く花奏に、五木は「はい。それはもう」とにっこりとうなずいている。


「そうか……」

 花奏は小さくつぶやきながら、再び志乃に目を向ける。

 志乃はというと、ご飯を喉に詰まらせたのか、急にげほげほとむせだした。

「志乃様、慌てて食べるからでございますよ」

「も、申し訳ございません……」

 五木の小言に、しゅんとする志乃の横顔を見て、花奏は次第に自分の心が満ちてくるのを感じながら、味噌汁の豆腐を口元に運んだのだ。
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