大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
離れの箏
花奏が出かけるのを見送ってから、志乃は屋敷内を熱心に掃除し始めた。
今日は朝から何度も赤面して、心が大騒ぎだったが、やはり身体を動かしていると、色々と頭も整理されてくる気がする。
着物の端切れを縫い合わせた雑巾で、廊下や柱などを丁寧に磨いていた志乃は、ふと庭の離れに目を止めた。
離れは戸が閉じられ、障子もすべて閉まったままだ。
以前志乃が見かけた、離れに置いてある箏は、いわば香織の形見のようなもの。
花奏はきっと時折、あの箏を見るために、離れに行っていたのであろう。
「でも……あの部屋に置いておくだけなど。それは本当に、旦那様にとって良いことなのかしら……」
あの部屋に箏を閉じ込めることで、花奏の心も同じように、過去に閉じ込めてしまう気がしてならないのだ。
すると志乃が小さく息をついた時、後ろから五木の声が聞こえた。
ふと振り返った志乃は、五木の姿を見て目を丸くする。
五木は志乃の前に正座すると、深々と頭を下げたのだ。
「五木さん!? どうされたのですか!?」
志乃は慌てて五木の前に座ると、頭を下げる五木の背に手を当てる。
今日は朝から何度も赤面して、心が大騒ぎだったが、やはり身体を動かしていると、色々と頭も整理されてくる気がする。
着物の端切れを縫い合わせた雑巾で、廊下や柱などを丁寧に磨いていた志乃は、ふと庭の離れに目を止めた。
離れは戸が閉じられ、障子もすべて閉まったままだ。
以前志乃が見かけた、離れに置いてある箏は、いわば香織の形見のようなもの。
花奏はきっと時折、あの箏を見るために、離れに行っていたのであろう。
「でも……あの部屋に置いておくだけなど。それは本当に、旦那様にとって良いことなのかしら……」
あの部屋に箏を閉じ込めることで、花奏の心も同じように、過去に閉じ込めてしまう気がしてならないのだ。
すると志乃が小さく息をついた時、後ろから五木の声が聞こえた。
ふと振り返った志乃は、五木の姿を見て目を丸くする。
五木は志乃の前に正座すると、深々と頭を下げたのだ。
「五木さん!? どうされたのですか!?」
志乃は慌てて五木の前に座ると、頭を下げる五木の背に手を当てる。